通し稽古と本番一日目

午後二時、出番の決まった参加者が舞台の上に集まりました。演出家の森田雄三は各自が用意した衣装を確認し、必要に応じてスタッフにイッセーさんの衣装の中から追加のもの等を持ってくるよう指示しました。

今晩のプログラムが皆に渡ると、うれしい緊張がわいてきます。「俺が決めた訳ではない。彼に良いものの順に並べるように言っただけだ」と森田は笑いながらスタッフを指す。「だから恨むなら彼を恨んでね。」

この順番には大きな意味がある。作品が確実に質をあげていますが、その上昇が著しいのはいつも稽古の後半にかけて、すなわち全員が乗ってきたころです。本番の時も、演技がしやすいのは舞台が落ち着いた中ほどだと思われるからです。

そのため、当初から公演の頭に経験者が加わるネタを二つ三つ並べる予定でしたが、参加者だけでも十分なレベルに達しているようです。今見るとその必要もなかったかもしれません。

西日の当たる部屋
クーラのないアパートにのんきな親父(犯罪者?)と息子が裸でテレビを見ている。町内会の会長さんのイッセーさんが選挙のお願いに現れる。
働きにに行かない息子と和歌好きな母親
一山当てようとばかり考えている大工の息子と、ブランド好きなガールフレンドをなじる母親。
転勤族
金沢と京都の結婚。細かいことをあげつらう旦那といじける妻。
大家族
狭い部屋に大人数がひしめいている。就職試験がきっかけで父親に会おうと、言い出す純情息子。無関心な母や姉をなじる。
大家族+父親
息子が父親を呼んだ。場違いな赤いブレザーの中年男。居辛くなった父親はコンビに弁当を買いに行く。
パステルカラーのマンション
妹が彼氏を自慢。それに出戻りの姉が張り合う。フルーツ缶詰工場の御曹司とつきあっていると。突然断食道場主のイッセーさんが現れる。口八丁で魔法の水を売り付けようとする。
身じろぎしない夫に寝そべってる嫁
大阪芸人と結婚したかった嫁。「なんでやねん」。「坦々面(タンタンメン)は物だからつっこめない」と夫にボケを強要する。
管理職の父とガングロ娘
父親が間違えて買って来た入浴剤の愚痴が止まらない娘。友人にバカウケだった「わが家の風習」を披露する娘。「わが家の皆にはお父さんが入っていません。」
お洒落な嫁と現場仕事の夫
遅く返って来たことを怒る嫁。相手にしない旦那。庭に来た野良猫で仲直り。
真面目な父と中学生
テレビに夢中で父親の話を聞かない息子。母さんの帰りが遅いのがちょっと心配な父親のぼやきは止まらない。
老夫婦
お葬式返りの老妻は、式場に現れなかった連れ合いを罵る。柳に風のおじいさん。
科学者親子
スイカのプランター栽培法を語る息子とビデオを見続ける父親。「ビデオのお約ぐらいはちゃんとしろ」。アスベスト検査に来るイッセーさん。
キャリアウーマンの娘と専業主婦の母親
パラサイトシングルを正当化する娘と、結婚は良いものだという母親。
地主に嫁いだ妻
お礼をどうしたら良いのか相談する妻。それに対して「任せるよ。頼むよ」を連呼する夫。不平が止まらない妻に「子供をつくろう」と呼び、ニベもなく断られる。
農業の母親に家業をついだドラ息子
ヨーロッパ旅行の資金を欲しがる息子を茨城弁でたしなめる母親。ストリートシンガーを目指す息子の親友のイッセーさん登場。
外国からの帰国家庭
学術論文のドイツ語を妻に見てもらう夫。東大を目指す受験生の息子。家政婦のイッセーさん登場。
お喋り夫婦
互いの間合いを狙うかのように、まくしたてる夫婦。
族の弟にヤンキーの姉
近所の目に怒り、さげすみ、笑う二人。

これから通し稽古を行います。選ばれた作品は18作品。出演者は三十八人です。出演しないワ−クショップ参加者も客席から稽古を見守ります。

演劇は生きています。演じる度に確実に変わっていきます。今日の通し稽古も今までとは違う展開を見せます。今まで無口だった男が奥さんに「もっと面白い話はないか」と聞き、自分が今日遭遇した出来事を語りはじめる場面が付け加わったり、ただただつまらないと思われた旦那が妻の誘いにのって不慣れながらも何とかおもしろ話を編み出してみたりします。

イッセーさんが参加する作品もどんどん発展し変わっていきます。
「俺のおやじイタリア人でしょ。だから今度イタリアへ引っ越すんだ。」
「むこうでもストリートシンガーやるの?」
「オマエがいなきゃ無理に決まってるだろう。」

稽古は開場後も続きます。開演時間になると、森田は舞台脇から観客にに挨拶をします。イッセーの本来の作品は詳細に至るまで仕上げられた完成品です。今回の作品はははあえてその粗削りな段階を披露するものです。他方からは無謀と言われるような企画です。皆にも暖かく見守っていただきたいです。

はじまった作品はびっくりするほどの出来です。観客が繰り返し笑おうとするのに、調子に乗って間を取るのを忘れて走ってしまう画面もあります。しかし、「おしい」と思うとたん、必要なタイミングがどれだけ微妙であるかを思い出し、我にかえります。この出演者はたったの四日しか稽古をしていないのです。なのにその自然でなめらかな演技は客席を魅了させ、わきたたせています。

最後の作品が終わった後、出演者全員が舞台に戻り、盛大な拍手を浴びました。今日の公演は大成功です。しかし明日もまた昼公演があります。それが終わるまで油断は禁物です。

順番の打合せ
プログラムが渡され順が決まる

細かい旦那
金沢出身の細かい亭主とプライドの高い京都女

参加者
残念。出演出来ず

なんでやねん
おもしろくない夫をなじる漫才好きな女房

ヨーロッパ旅行
農家の居間に上がり込んだミュージシャンイッセー

森田雄三の挨拶
開演寸前

帰りが遅い
庭に来た野良猫でけんかも仲直り

舞台挨拶
カーテンコールで分かる出演者の多さ