輪郭の前ぶれ

今日は意外にも朝礼で始まった。とは言え、別に演出家の森田が突然に規律趣向になったわけではない。朝礼は会社や学校など、社会一般で毎日行う行事だ。その故、聞く方は殆ど聞き流すものだ。一方、喋る方は特に言う事がなくても発言する義務がある。存在しない話題を必死に探すのだ。

まず手本を見せたのは挨拶なれしている演劇製作ネットワーク主催者のスタッフだ。森田に指名されたら一瞬後ずしりしながらも、立派に皆が聞いても五分後には忘れるだろう内容をすらすらと並べてみせる。さすが本職だ。この方は間違いなく出世する。

しかし演じるとおもしろいのはいつまでも場慣れしない、出世の見込みがない、でもそれでも何とか自分なりの義務感にかられてなにもない所から言葉を絞り出す姿。相手の言う事を聞いていなかった、あるいは聞いていたのに理解出来なかった、しかしとにかく反応しなければいけない。その不安そうな姿は見る人の心をくすぐり、「頑張って」と励ましたくなる感情を呼び起こす。

実生活ではなるべく早く脱ぎ捨てられ、忘れされるこの「不安」を思い出す訓練を繰り返す。

「開場内の一番奇麗と思う女性を選べ」と言われた男性参加者は、選ばれたその女性と並んで前に座りもごもごと話すと、何となく別れ話の前兆に見えてくる。家庭内の不穏を描こうとするチームもいる。時々、火がくすぶり、鞴がわりに隣の参加者を叱ったり色々な方法で戸惑わせる稽古が繰り返される。

今回の参加者にとって、「家庭」よりも「会社」等の設定がなじみやすいようだ。夜の部の、工事現場の朝礼が引き金となり、加速的な進展が始まる。実験を繰り返すうち、色々な団体の会議や反省会などが進化しやすい事が判明する。銀座のバーの売上げ目標会議、小さな会社のクレームに関する事情徴収、辞めようとする社員を引き止める上司、薬事法に触れるすれずれのセールズを見事に部下どもに指導する「ネットワーク事業」の営業社員等が光ってみえる。

進展がみられない設定は少し変える。時間はたったの五日間なので、予め設定を決めるのは危険だ。材料は人の数だけあるので、流れを強制的にわだちにはめるよりも、無数にある小道のうち、一番魅力的で進みやすいのを選べば良い。

人選も頻繁にかわる。自分がしようとしていた事を別の人が演じるのを見ると、悔しいながらもなぜ変わったか分かってくる。コツを掴みさえすればまだまで誰にでも出演するチャンスがある。

出番を待つ参加者の表情は、舞台にいるチームの言動に敏感に反応するバロメーターだ。本番まであと四日。幾つかの上演出来そうなネタの輪郭もかすかながら見えてきているような気がする。

朝礼、緑Tシャツの男性
朝礼は聞き流すものである事を実証する今尾君

椅子に座った男女
別れ話のタイミングは難しい。

床に座った男女
相手の存在が当り前になると、言うことは耳に入らなくなる

客席が笑っている
うまく行くと観客が力になってくれる

首を抱える女性
舞台に上る時、設定はまだ決まっていない

頭を抱える男性
このシーンの主役は上司に怒られる駄目従業員

椅子こしに笑う森田
森田が指示を出すと舞台上の展開が変わる

眺める女性
思い出す事が大事だ

ポケットに手を突っ込み、挨拶をする男性
朝礼も場慣れしていれば迫力がでる。さすがプロ

大きく笑う女性
営業には笑みが書かせない

神奈川二日目夜の部

始めて仕事に行った日のこと話してみてと森田さん。
えー、デパートだったんですけど、入り口が裏の方にあって、それが迷路みたいになっていて地下の方へ行くとこっちって言われて。これやって。イチゴのヘタ取りをして一日終わった。(女性、バイト)
広いフロアなんだけど、人があまりいなくて「待ってました」といわれたんですけど、その人は忙しいらしく「カテゴライズをやって」と言って出て行ってしまった。カテゴライズって、なんだと思って。(バイト、女性)
非常灯がある薄暗いせまい裏口に自転車があって、、、(高校の時のバイト)
「朝礼をやって」
「はい、お早うございます。今日の工程は分かっていると思いますが、、、」
勢いよく挨拶か入り作業工程の確認と安全面の注意を言っていくお父さんと言った感じの男性。いつもやっている朝礼風景がまざまざと浮かんでくる。それが切っ掛けとなって地下から吹き出てくる湧水状態となった。
感触のようなものを手繰り寄せている空気。

前に出て会社、仕事場、会議室などの朝礼やミーティング、申し送りなどをやりはじめる。

「バーのミーティング」
今朝は二十日です。指名ゼロ、同伴ゼロの人がいます。ボーイさん、フリー客を成績のいい子に回して下さい。そんな人に回す必要はありません。
隣同士、化粧している顔を見合ってください。どうですか、、、
「大学の事務の申し送りかな」
RAの方が今日三人来ました。だれそれさん、、、
電話がそれぞれ変わります。
また、助手の方は1ヶ月40時間以上働かないように気を付けて下さい、、、

聞き方はそれぞれちがうの。聞いている側をさぐってってほしいのと森田さん。

休憩に入っても参加者、森田さんが出てくるのを今やおそしと待ち構えている。