テーマが見えて来る

今回のテーマはやはり「仕事場」になりそうだ。恋人や家族を演じてもなかなかしっくりこない組み合わせも、不思議なことに、仕事に関係のある場面にすり変わると生き生きしてくる。

参加者のなかには、数十年同じ仕事を続けてきた者もいるが、芝居を続けたいためか、もしくはより自分に適した仕事を探すためか、転職を続けてきた者や、就職を一度もせずアルバイトだけをして来た者も少なくない。その事を切っ掛けに、今日の最初の課題は「就職しない子供を叱る」「ホステスになった娘を叱る」「辞めようとするベテランバイトを問い詰める」などだ。

「なぜ辞めるか」という問いにたいして、さまざまな答えが返って来る。なかでも笑いを誘ったのは「俺は赤になりたい」だ。辞めようとする従業員が、遊園地でヒーローショーを見た時、「赤」だけが終わってからもその場に残り、「赤」だけが子供たちと挨拶が出来るのを見て、自分も辞めて「赤」になる決心する。それに対して、自分よりも若い上司が「赤は全員をまとめるリーダーだ。お前のここでの働きぶりじゃなれる訳がない。」と、きっぱりと返す。

未だ芝居の感じを掴めていない参加者もいるので、つくばでもやったように皆に「自分に話しかける親」の声や言葉を思い出し、再現してもらう事にする。さすがにもう三日目なので、嘘っぽく喋る者は少ない。参加者の口から意外な言葉がこぼれ、表情が和らぐ。重要なのは色々な感触や感覚を思い出す事だ。

今日の夜の部には、予期せぬ豪華おまけが付いた。昼の部と夜の部の間の休憩中に二人芝居の稽古をしていた小松政夫とイッセーが、飛び入り即興で、参加者達に「営業部への挨拶」を披露してくれたのだ。拍手がおさまった後、森田は「ほら、コツさえ掴めばこんなに出来るのよ」と笑い、参加者は半信半疑で稽古に入る。

稽古が進むに連れ、上演候補作はごぼう抜きに出て来る。上演決定作も現れる。金融取り立てやを見事に披露する参加者は盛大な拍手を呼び、いきなり人気者になる。清掃業者は、次から次へと訪れる新入社員に止めどなくごみ箱見分け方、袋の取り出し方、そしてペットボトルの分別を説明する。電話会社の街頭セールズマンが恋人の父の職場を尋ね、彼に説教されながら「娘をください」と訴え続ける。

没ネタの品質も上がってきている。より強烈な作を見せられると、他の参加者も刺激され、次のレベルへと移る。「笑われる」事を避けるべき事ではなく、歓迎するべき事として受け入れる勇気がわいて来ているようだ。

笑う眼鏡の女性
芝居はなま物。その楽しさも新鮮だ。

客席と窓
神奈川でもノートを取る参加者が多い

真剣に見る二人の女性
我を忘れて舞台を見る

考え込む眼鏡をかけた女性
考え込む一人一人の表情に個性が表れる

見る男女
考える姿が魅力的

小松さんとイッセー
午後の部には、イッセーと二人芝居の稽古中の小松政夫さんがゲスト出演。即興で「営業マンのかがみ」の話を実演。どんなに聞いても飽きないこの面白さは真似できない。

電話する男性
金融会社の取り立てはねばりが肝心。相手を脅迫せずにどう攻めるかがポイント。見事な演技だ。

笑う森田
大成功

オレンジ色のシャツの男性
街角の呼び込み屋。見事に再現しているが、発展しなかった。

プリントのドレスを着た女性
生鮮食品加工ラインの場面。作業の単調さを緩和する会話にはリアリティがある。

7月20日(水) 三日目夜の部

参加者は驚くほど様々な職歴を持っていた。家族の事情で転職を余儀なくされたと語る中年男性。仕事に深入りしないで自分の生活をキープしている女性。やりたい事に時間を合わせて、仕事を選んでいるらしい人。等。

その中で同じ人で二つの職種をやった人たいた。

女性 (パチンコ屋の朝礼)
よくとおる声で元気一杯。楽しそうにやる。
「やかましいでしょう。耳、痛くなら内の。昨日の昼の部で一日でやめたって言ってた人がいたな」と森田さん。
(弁当やさんのシール貼り)
単調な流れ作業。一人言のように話し出す女。
「最近、若い男が出来たのよ。」
隠しきれない嬉しさがつい出て口が開いている。
男性(室内プールの監視)
「あ、ボク、危ないから走らないでね。」
「危ないですから走らないで」
これだけしか言うことがない。
「これは喋る事がないな」と森田さん。
(街頭でのキャンペーン)
「ABC電話のキャンペーンです。」
「お客の電話代やすくしませんか。」
「只今、商品券のプレゼントやってまーす。」

こちらの方も決め口調ででの繰り返しだが、体の向きを変えたり、顔を傾けるひょうしにちょっとした表情がこぼれる。

「あ、椅子を並べて。会社にして。誰か、お父さん役屋って。」イメージが湧いたらしい森田さんが言う。野武士の風貌を持つ男性が出て来て座る。

「えー、突然会社に父親をたずねてきて。結婚緒申込みにきたのね。はい、やって」と森田さん。

やってみない事にはどちらの方が成り立って行くのかわからないのだ。