通し稽古

今日は昼の部も夜の部もない。未だ出演が決まっていない参加者は早めに来場し、作品を演出家の森田に披露する。筑波と同様、もう少し早ければ採用出来た作品も多いが、採用される作品も多い。

今回は公演前の挨拶はない。客電が落ちると音楽がなり、全員が鳴り響き、衣装に着替えた出演者は舞台の上手から下手へと歩く。同時に、数名の参加者が都会の喧しい雑踏を街頭セールズ、選挙運動等のウグイス嬢、キャバクラの呼び込み等のかけ声をもって表す予定だ。

稽古は続く。森田は四時からの休憩を無視し、次から次へと出て来る作品を観て、駄目出しをしながら選抜する。もう昨日の段階でかなり充実したはずの演目がどんどん増える。出順や配置を担当するヨリちゃんは必死になってとっているメモは何ページにもわたり、その様子には密かな焦りが現れる。

6時になっても出品出来ていない参加者が残っている。しかし、公演の予定時間は二時間だけだ。むしろ後で進展のない作品を削るしかない、と森田が判断し、通し稽古は予定通りの時間に開始される。

出順を渡される演者は不安そうだ。舞台と稽古場は違う。たとえ空っぽでも、客席が巨大な空間に見える。慣れれば快感になるかもしれないが、今はさらなる緊張のもとにすぎない。さらに、大きな空間は声をも吸い込み、気持をも縮ませる。

森田は出演者に助言をする。「声をもっと大きくしろ。発生のためでも観客に聞かせるためでもない。ただ単に声を大きくすれば何かが生まれて来る。そうするとどうすれば良いか自ずと分かって来る。」

と押し稽古は延々と続く。飛躍的に伸びる作品もあれば、何故かしぼんでしまう作品もある。作品のきれが著しく落ちると、森田は「残念。これはカット候補だね」という。通し稽古は、明日もう一度行う予定だ。その時最終決定を下す予定だ。

しかし、気が付くと時計がもう九時を過ぎている。二時間の公演に三時間分のプログラムを積み込める訳がない。森田は厳しい決断を余儀なくされる。今日のうち、ある程度の選抜をしなければしゅうしが付かなくなる。幾つかの作品は全体のバランスから見ておむすぎる。幾つかは見込みがありながらも、開発する時間が少な過ぎる。中には判断しにくいものもある。

ワークショップの本来の目的は発表ではなく、勉強だ。しかし、出られないと悔しく悲しいのは当然だ。作品の現時点の完成度を優先させるしかない。森田、イッセー、そして演出助手のヨリちゃんは舞台で真剣に演目をにらむが、判断が難しい。今日、突然花開いた「そば屋」と「清掃員」を天秤にかける時、参加者たちに投票をしてもらう。結果てきには「そば屋」が惜しくも破れ、「清掃員」が残る事になった。

皆が変える前に、イッセーさんも稽古を見た時のメモや自分の長年の経験をもとに全員に駄目だしをする。何時もながら、出演者の観点かの的を得たアドバイスだ。

稽古は本番まで続く。次の通し稽古は明日の11時に開始される予定だ。

舞台上の演者達
通し稽古の前、演者に緊張がはしる

そば屋青年
そば屋の厨房。リアルながら微妙な差で清掃員に破れてボツ

着物を着た女性
仲居さんの朝礼。旅館の厳しい舞台裏が生きている。

男の肩に手をかける女性
社長の恋人。関係が成立せずボツ

ヨガをする女性
ヨガ教室1。展開せずボツ。

雑踏を横切るイッセーとさかな
通勤者を縫って町を歩くイッセー爺さんとさかな婆さん。東京へ行くつもりが、横浜で立往生

白いドレスの女
台所用品の実演販売。慣れた喋りは、まるで噴水のようだ。

農作業着の女
野菜の気持がわかるおばさん。開発が間に合わずボツ

お惣菜やの制服を着た女
お惣菜屋の店員。詳細まで暗記している食材の量を忘れる時の苛々が観客を引き付ける。

両手を頭上に上げる女
辞めたいと上司に訴える女。個性的な悩み方がとても新鮮。

作品を選抜する森田とヨリちゃん
通し稽古の出来で順番が変わる。演目を調整する森田。

駄目出しをするイッセー
イッセーさんの駄目出しのは、役者の観点に比重をおく。