都会の仕事人たち
どこから始めよう。神奈川ワークショップの期間中、森田オフィスに寝泊まりしている私が昨日のレポート書きや写真の整理を終えたとき、時計のは針は6時をさしていた。少し仮眠をとるつもりが、起きたらもう既に演出家森田が会場に向かっていた。すぐに後発隊と追う予定が、イッセーさんの次の公演の発売開始直後で電話が殺到していたため、しばらく足留めを食らったのだ。
会場に付いた時、もう稽古が始まっていた。荷物も置かずに舞台へ向かうと、驚いたことに「町工場の純情」の後ろに田舎お爺さんのイッセーが立っていた。きっとお婆ちゃんとはぐれて、必死になって居場所を探していたでしょう。
その後も、爺ちゃんと婆ちゃんが色々な場面を歩き、色々な人と擦れ違う。教室の壁に張ってある鏡に、窓の外を歩く二人の姿が写ると、生徒がレッスン中に体を悪くしたという災厄の事態に直面しながらも一瞬だけ振り向くヨガの先生。本人達以外の人にとって意味不明な専門用語の嵐を巻き起こす女性三人組に恐る恐る話しかけるお爺さん。ごみ回収業者の新人説明を見てしまい、いそいそと去っていく爺さん婆さん。
いったいなにが起きたのか。バーの朝礼にも何処となくイタチっぽい、少し陰険そうな表情をしたイッセーバーテンが加わっている。
イッセーたちが各場面を縫いながら出没すると、それぞれの作品の細かいほつれが見えない糸で縢られる。
飽きの来ない演劇だ。稽古は開場時間ぎりぎりまで続く。出番のなかった参加者は、森田の許諾を得て、好みの作品の発起人を口説き、演者に加わる。
舞台脇二階の投光室から舞台写真を撮ると台詞がはっきり聞こえないので悔しい。出来れば客席から見たい。投光室から客席はよく見えないが、八百席のホールが笑いや拍手でわいている。後で話を聞くと、家族で来場したお客さんが前のめりに、全員そろって笑っていたらしい。帰った人も三人だけいたらしい。一人は中年男性で、「全然ワカラネー」といいながら頭をかしげていた。青少年センターだからもう一寸メルヘンチックな物語を期待していたのだろうか。
最後の参加者作品の後、イッセー爺ちゃんとさかな婆ちゃんがもう一度恐る恐る舞台中央のベンチに座り、話し合う。目まぐるしく渦巻く都会の仕事人たちの社会をみて、あと二日のはずの旅行を早めに切り上げようかと相談する。お婆ちゃんが井戸水で冷やしたスイカの味が恋しくなっている。二人がゆっくりと舞台から降りると盛大な拍手が鳴り響き、演者全員がまた舞台に並ぶ。イッセーさんが上手から最後の挨拶をし終え、全員が再び舞台を去ろうとする時、震度5の地震が劇場を揺らす。本番の途中じゃなくて良かったが、計ったかのようなタイミングが面白い。
公演後、ロビーでつくばワークショップの参加者に声をかけられる。一人は、自分の写っている写真がほしいと言うので、メディアに焼いて渡す。わざわざ何時間もかけて来てくれた事はとてもうれしいのだ。一日あたり記録用に撮る写真は数百枚だ。思い出になるので、何枚かを焼き増しし、公演時ロビーで買い求められるようにしているものの、全てを焼き増しすることは出来ない。後でほしくなる参加者はこれからも出てくるだろう。そんな要望に何かの方法で応えられるシステムを考える必要がありそうだ。
一般客が退場した後、簡単な打ち上げを行う。始めて聞く参加者の自己紹介と参加した理由は前回同様とてもおもしろい。中には、以前森田のワークショップに参加した演出家のワークショップにを受けてから「大元を見たい」と言う参加者もいれば、「色々なワークショップは明らかに全部いんちき、でもこれはそうじゃなさそうだったから」と言う参加者もいる。当然イッセーさんのファンの方が多いが、それでもこのような言葉が帰って来るとうれしい。
森田も参加者たちにとってうれしい発表をする。調子が出て、テンポが上がったので時間的な余裕が生まれた。明日も朝から開場で、出たい人の作品を見て、よかったら既存の35作品に追加する。やる気のある者には今からでも出演出来るチャンスがある。

好きな子の手相を見る純情な町工場の青年の背後で、イッセー爺さんが褄を探す

食品加工工場のお喋り従業員のいたずら好きは目の表情だけでも十分わかる

おやじ色満点でも、この上司の人の良さは一目瞭然だ

旅人にとっては通勤者は町の背景だ

専門用語を機関銃のようにはく娘たち。疑似世界の住民のようだ。

夜まで乗りきる為に、毎日自分を一度はどん底へ落とし込む女子従業員。哀れながらほほえましい実に見事な人物描写だ

お葬式と結婚式のテーマがかなりかさなる事を暴く秀作。イッセー爺さん達はなぜかそのバトルを観戦する。

舞台に並ぶ演者達。レベルの高い公演だ。

拡声機を使っての自己紹介。前回同様驚きの連続だ。