緩やかな宮崎時間
昨日よりも緊張感がすくない。もう三日目なので、今までならすでに決定候補は幾つかあるはずなのに、今回は全体のテーマすら具体化していないのだ。明後日までに作品を仕上げるには的確に描写出来る人物、信憑性のある場面設定と失敗を恐れずに前へ出る勇気が必要だ。
いつもなら、チームが出来ては消え、相性の良い参加者同志が一緒に作品を発展させていく。今回もそうだが、男性参加者の割合が極端に少ないため、使い回しが激しいようだ。また、出たい参加者が積極的なので幾つもの作品に出ている女性参加者も数名いる。作品その物が有望であっても組み合わせが悪い場合、演出家の森田がメンバー入れ替えを指示する事もある。どうしてもうまく行かない時は、暫く他の参加者が展開する場面を観察したほうが、早く閃く場合がある。
参加者たちの作品はそれぞれさほど長くはないが、その合計した公演時間は90分から二時間にもなるので、演目の順序と組み合わせがとても大切だ。また、テーマの一貫性も重要だ。今回生まれているこのんびりとしたペースの作品は穏やかでやさしい、都会の進化に未だ侵されていない世界を描写する。しかし、この世界もいつまでも安泰であるとは限らない。
昨日も今日も面白かったのは、森田の「人物や家族の関係をもっとはっきりさせなさい」に対する参加者の反応。つくばや神奈川では、まず変わるのは、距離や姿勢だった。しかし、ここ宮崎では参加者がまずお互いを見合って、配置替えを始める。お爺さんの座る位置、息子たち、嫁、姑、男の子、女の子と、場所がはっきりしている。森田が少し中途半端そうに座卓の角っこあたりに座った「主婦」を叱ると、参加者たちがきょとんとした顔をし、主婦が「台所に近いし、いつもこうよ」と言う。
やはり宮崎では昔ながらの習慣が健在だ。しかし、東京へ出る若者も多い。成功して帰ってくる者も、挫折して帰ってくる者も、他所の地に行ったきり帰ってこない者がいる。かれらのもって帰る習慣や経験、そしてテレビなどの影響は否定出来ない。
「日本では今革命が起きている。性的価値観や家族関係、人間関係がどんどん変化し、今まで当り前だった風習が崩れて来ている。ここ宮崎ではその影響がまだ少ないが、都会はもう後戻りが出来ない段階まで来ている。お盆やお正月の親戚のあつまりもなく、お墓参りすらもしない。いとこ会なんてもってのほかだ。ここではまだ家族が食事の時座る位置が決まっていたりするが、東京ではもう家族が一緒に食べる事すらなくなっている。」
「作品の中で、中学生か学校の制服をきた少年と少女が外で普通に話しているシーンがある。東京ではありえない、とても宮崎らしい健全な場面だ。都会なら、制服姿で二人きりだけでも、もうどこか汚れていることになる。援助交際にしろ、話を聞くと学校の友達にさそわれて始める人が殆どだ。何か目的があってお金が必要という訳ではなく、ただ何となくなりゆきで、彼氏とデートする時親に「友達の所で勉強している」と嘘を吐く延長戦のようなもので突き進むだけだ。」
「だから、今回のテーマの流れを基本的に三つある事にする。まず、宮崎らしいおっとりした所を見せる。それから、不思議な事が何気なく日常に溶け込めると言う事。後半は、東京など、都会との接触とその影響を見せよう。」
森田はこの段階でここまで区分けしたテーマを宣言するのには少し驚いた。参加者皆にも早目に目指す方向をはっきりさせたかったでしょう。しかし、現段階ではまだ枠組みしか出来ていないので、明日新しく入る演目によって全体がまた大きく変わる可能性もある。何といっても台本を作っているのは劇作家ではなく、出演者達だから。

家族は普通はきちっと座らない。テレビを見る人、話す人、本を読む人と、自由にしているはずだ

座布団を折り畳んで寝転がるのは家のものか親しい友人だけ

少しシャイそうな男性の需要が高い

座り方を工夫すると関係がはっきりして来る

中学生も多い。出番を狙うが、前へでる勇気を絞り出すのには時間がかかる

なかなかよい体勢だ。これならどんな態度で喋るかが想像しやすい

テーマをとく森田

伝統的な座り位置も関係をはっきりさせるが、起点にしかすぎない。芝居が始まるのは食事がすんで30分、皆が足を崩してからだ。

新ネタに挑戦。関係がはっきりせずボツ

家族に、オーディションに受かったが授業料が必要だとうちあかす娘。

座り方を工夫している。これなら大人と同席ならきっといとこか姉妹のはずだ
三日目
東京にあって宮崎にないものを参加者があげる。
地下鉄。渋谷デビュー。お台場。エスカレーターの左の行列。秋葉系の町。新幹線が通っている。デパチカスィーツ。六本木ヒルズ。着ぐるみ族。
どうしても東京がすすんでいていいもんだとか田舎くさいとか言われて来てるよね。でも東京では墓参り、家族でごはんを食べると言うのはもうこわれているの。東京はもうあと戻りは出来ないの。だから宮崎の地にどんと立とうと森田さんは言う。
前に出て、お祭りに集まった親戚、家族をやることになる。叔父、叔母と子供たち 息子嫁と家長と嫁。そんな家族構成で座る。「座っただけで関係がわかるようにして下さい」と森田さん。
- 1番目
- オヤジ同志が(兄弟だったり、むこだったり)がそれぞれに話し出す。奥さん同志。親の頭越しにいとこ同志が。まるで三重奏のような会話だ。
- 「うちの娘看護士になるっちゃけどあんたんとこばどうなん」と奥さんどうし。
- 「うちん子はまだ決まっちょらんで三者面談に呼ばれてねぇ」
- 息子・「看護士になるん?」
- 娘・「ううん、ならん。この間研修で血みたら貧血おこしてたおれたんどちゃ。わたし東京行って歌手になろう思うちょる」
- 2番目「あっ家族」
- 会話がクロスする中、母親が突然あっと言う。又何ごともなく話がはじまり叔母が急に「あっ」という。又会話がはじまって娘が「あっ」と言う。
- 娘は何かを見たように立ち上がり、戸を開けて「何もないわ」と言う。
- 3番目「息子東京行って歌手になる」
- 父親、母親、息子、娘
- 父親の弟、嫁、息子、娘
- 和気あいあいと話がはずむ中、突然息子が歌いだし、東京へ行って歌手になると言いだす。母親のかわりに説教する義理の伯母。かたや理解を示す伯父は自分は兄貴のように好きなことを出来ずにがまんした話をする。
- 母親が泣き出して、夫が浮気をしてた話をする。酔ったふりをして夫、男が自分の金で遊ぶのはどこが悪いといばる。
- 4番目「ぐうたら息子、子供あるにゃ宣言」
- 何も働かん息子が親戚のいる中で二歳の子供がおると告白する。
夜、9時30分、お昼からほんの少しの休憩だけのほとんどぶっとうしのような稽古が終わって、森田さん「ここの場で探すんだからね。それがのびのびしてくることだからね。一気に変わることってそう言うことだからね。自分の感じている方向からやろう」としめくくる。