雨上がりの芽

四時半に起きるつもりが、目覚ましにも気付かず八時まで寝てしまった。お陰で写真整理や連絡業務等を終えるともう十一時を過ぎていた。会場ではすでに稽古が始まっている。

楽屋に入ると、ウッドベースと竹笛に乗った祭囃子が聞える。どうやら芝居稽古が休憩に入ったらしい。岡田さんが稽古二日目から、めぼしい人材を見付けては宮崎音楽隊に加えてきたので、今は民謡とジャズボーカルにリズム隊と、かなりユニークなアンサンブルが完成している。

音楽隊だけではなく、公演の転換時に姿を表す火男ダンス隊もいる。火男踊りの腰振りだけを見ると猥褻と言われても仕方がないが、そのワイルドな激しさは新鮮だ。水平移動に腕や足の動きだけを加えたいわゆる盆踊り等とは全くちがって、極めて三次元的な、全身を使うエネルギーに満ちた踊りだ。

この事に気付いたのは、参加者の一人が「祭りに新しく参加する踊り手を指導する」場面を演じようとした時だった。ネタその物はおしくもボツになったが、その冒頭の動きは今も鮮明に記憶に残ている。腰を低く下ろした状態で踏み出した右足に体重を移動し、右肩と上腕を何かを振り払うかのように回し、腰を大きく後ろへ突き出す。思い切り重心を落とした状態でのこの動作は相当な体力を要す。低い体勢から跳ね上がっては体を回転させ、回りを振り向きながら飛ぶように走り進む元祖火男さんは、顔がひょうきんかもしれないがかなり頼もしい力持ちであったに違いない。

今日の稽古は、今までよりもはるかに全体的なペースが激しい。今までおとなしく後ろから見ていた参加者も、今日こそはという具合に舞台に挑戦する。「ダメだ」と言われても何度も再挑戦する者もいる。一言二言しか台詞を言わないうちにあっさり「はい、もう良い。これは出します。今尾君、メモしてね」と言われ、呆気にとられる者もいる。明日も多少の稽古はする予定だが、全員のレベルが上がっている中、今日こそが挑戦の場だ。

なかには「もう今回はやめた方がいい」と言われる参加者もいる。「今は無理だから、悪い事は言わない。またチャレンジしたらまた駄目だと言わなければいけない。そうすると傷が深くなるばかりだ。俺もあなたを傷つけたくないから。今は見てた方がいい。そのうちスィッチが入ったように出来るようになる。」

厳しい言葉は、苦い薬のようだ。しかし、萠芽には一定の条件が必要だ。その条件が揃わないうちに無理をすると、種そのものが傷つく。出芽の時期が来れば芽はでる。萌しを感じるその時まで落ち着いて他の参加者を観察したほうが良い。

閉館時間に近付くと、森田は参加者に再度明日の予定を伝える。

「明日の十二時半からは通し稽古だ。また出ていない人と、作品に不安のある人はそのまえに来てね。見てあげるから。」

稽古は本番当日も続く。

音楽隊
岡田さん率いる音楽隊。隊員は芝居にも参加する

踊る火男達
エネルギッシュな火男たち。本気で踊るにはそうと体力が要る

浴衣姿の少女
ねえ、お父さん。私、東京へ行ってモデルになりたいの。ねえ、、、」

音楽隊、竹笛
音楽隊が揃うとかなりの数になる。

ジーンス姿の若者
寂しい酔っ払い叔父さん。気が良いが怒りっぽい。

浴衣姿の女性二人
東京へ行った時の事を友人に語る。「東京駅は、三キロもあって出入り口が何カ所もある、、、」

じんべ姿の男性三人
男性は上座の方に陣取っている。例え酔った振りをしても、お父さんの言うことには逆らえない

水色ブラウスの女性
今日新しく挑戦し、見事に採用。待った甲斐があった

4日目

早目に会場にやって来た人たちから、ずんずん稽古がはじまった。

・女性携帯電話をかけて、友達の奥さんの噂話をする。女性が交替するごとに尾ひれがついていく。尾ひれはつればつくほど他?なく笑えてくるから不思議だ。

・花火大会に出かけて行ったゆかた姿の娘。早くに帰って着て行儀悪く座って父親につっかかる。

悪態をつくほど父と娘が仲よく見えてくる。

・高校女子と中学男子がデートと思いきやいとこ同志らしく草むらに座って話している。

「私ダイエットしちょるん」
「なんで」
「隣のクラスに好きな子がいるにゃわ」
「どんな子や」
「小太りで頭悪いんや」、、、

「こんな風に制服を着て並んで座っていて、不潔感がないって貴重なことよ」と森田さん。

・オニを見た先生の話
最近オニに会ったちゃ。
How are you ってあいさつしたっちゃ。

・父と娘
東京へ行きたいと娘ゆたっと話しだす。
「特別したいってこともないけんど、友達が東京で彼氏見つけて、パラソルのついたコーヒーカップに乗って花火見たっちゃ。なんか東京行ったらやりたいこと見つかるような気がするっと」

・東京帰りの娘女友達にモデルをやったと話す
「モデルにスカウトされたちゃ。芸能人ともちょっと知り合いになった。

ほんでも東京へはじめんて行った時は東京駅で迷子になったとよ。入り口がいっぱいあって歩くと3キロもあるんよ」

大家族をやったり一人芝居が二人芝居になったりところっころっと変わって不安と隣り合わせの初々しい作品が次々と誕生して行く。

・6時30分から通し稽古となる。ゆかた姿の女性、じんべえを着た男性でぐんと祭りの感じがまってくる。参加者の中から民謡をうたうひと、太鼓を叩く人、笛を吹く人、手拍子をする人、おはやしを歌う人などで生な音楽隊ができている。

・女性の民謡を歌う声がらかに聞え、それがオープニングだった。
「タータラ、タータラ、タータララ」女性の声のおはやしがベースにのってジャズ風にアレンジされ、男たちのひょっとこ踊りがはじまった。