夏祭り
花火大会の後は必ず少し寂しくなる。花火師たちが一年かけて丁寧に仕込んだ球一つ一つが空に舞っては花開き、風に散って行くと、地上から見上げる観衆は手をたたき歓声をあげる。優雅になびく柳火も明るくはじけるスターマインも、名さえも知らない炸裂球も、順を追って打上げられる。全てが終わっても暫くの間空を見続けるが、最後に残るのは静けさだけだ。
今日の公演の編成は昨日の本番とはかなり変わることになった。変更点は色々あるが、一番大きく変わるのは作品と作品の転換やつながりの部分だ。昨日は、照明が消えるのを合図に音楽隊が演奏を始め、暗転中に演者たちが位置に付いたが、今日は合図となるのは音楽隊。また、一人芝居の演者が数名同時に舞台に立ち、照明が暗転なく一人一人を照らすように切り替わる場面等も出来た。
「始めの部分はだらだらしてても宮崎らしくていいが、都会に掛かる部分はもっとテンポを上げないと。転換もそうだが、昨日よりも前置きを飛ばして、すぐ本題に入るようにする。」演出家の森田は、全体の流れの最終確認をすると、もう開演時間間近だ。
公演は昨日と同様、旧婚旅行に来たイッセー叔父さんとさかな叔母さんが、学生服を来た若い男女の後ろに並び、宮崎へ前来たのは何十年前だの、昔来た時とさほど変わらないなだのと、他愛のない会話をする所から始まる。ただし、老夫婦が別行動を取ると言って舞台を去り、学生服の二人が話しをする途中、次の演者がもう舞台に上っており、無言ながらも自分の演技を始めている。各演目は昨日同様のんびりしたペースではあるが、この転換方法だけで脈がはげしくなり、生き生きとする。
中盤になると、客席は一瞬静かになり息を飲む。舞台を横切る火男たちの後を平然と歩くのは小松政夫さんだ。何食わぬ顔で参加者のなかに紛れ込んでいる小松さんは、舞台に上って、「ハブの血清」を売る旅商人等を演じ、その後も、町内会長イッセーと現れる祭りコンサルタントとして現れる。イッセーとの二人芝居の稽古のため宮崎へ来た小松さんが、この企画をこんなにも好意を持って支持して下さるのを見て、スタッフも参加者も新たな元気が増してくる。
東京の遊園地で、きらびやかなパラソル付のコーヒーカップに乗って、彼氏と花火大会を見た友人を羨む娘を面白がってからかうお父さん。バーで瓶に水を入れてミネラルウォーターを作りながら子供を育てた未亡人。急に産気がおそい、心配でおろおろする夫を無視し、風呂場で出産した友人の話をする女性。舞台は万華鏡のように変わり、繰り広げられる情景を縫うように火男達が妖しい踊りを繰り返す。
会場の高揚感は公演後も続く。自己紹介の時、初日はなかなか流れて来なかった言葉は、今度は止まらなくなっている。皆、参加した理由は異なり、何時まで聞くに飽きない。話は日が傾き、光りが穏やかな赤みを浴びるまで続くが、やがては本当に解散の時間だ。
異次元への遠足は、最後の参加者がマイクを離す時に終わり、明日からは各自を家庭、学校、仕事等の実生活が待っている。
賑やかな祭りの後の静けさは寂しいが、静けさには日頃散乱しがちな思考を集中させ、感覚を研ぎ澄ます効果もある。明日も気を落とさず、回りをいつもよりも良く観察しよう。そして、もしお盆休みの夜に、ずうっと会えなかった人の姿が見えたら、静けさのなか、柔らかい宮崎弁で声をかけて見よう。
「良く来なさったな」、、、と

公演二日目、転換のきっかけは照明ではなく音楽となる。公演前、宮崎音楽隊を率いる岡田さんは、隊員とリズムを刻む

子供の時、まだどの家庭にも蚊帳が有った時の話し。六点吊りした蚊帳の中に入り、上に乗せたビーチボールを蹴って遊んだ思い出を語る

松竹芸能にテープを送ったら即採用。ただしレッスン代が百五十万かかるとのこと。壊れたレコードのネタで東京で大ものスターになるつもりの長女を思い止どまるよう説得する家族

ハブの血清で出来た何にでも効く薬を売る旅商人。小松政夫さんも参加者に紛れて特別出演

仙作叔父さんの隠し子の話に、元気よく興味を示す姪っ子。二日目は子供らしくはしゃいではしゃしゃり出て盛り上がる

転換時に現れては妖しく踊る火男たちは、お祭りの引立役

何時も前向きな二流演歌歌手津山ひろし。宮崎でカラオケ教室を開き、第一期生達により歌が上手くなる「グッズ」を手ごろな価格で提供する

亡くなったお爺ちゃんの話しをするお婆ちゃん。楽しみにしていた桜ん坊を全部食べられた事はいまも悔しい

祭り後、変える所のない男たちは集会し、情熱的に喧嘩する。ふと上を振り向くと、夏なのに雪が降っている。夢でも見ていたのだろうか
演劇ネットワーク宮崎編:8月7日(日)
10時過ぎ、楽屋のモニターから新しい芝居を見てもらっている声が聞えてくる。
「よし、これ行こう」「今尾さん、これ入れて」森田さんの声。
その稽古が終って間があいた時、ちょっと客席に下りてみた。
暗くなっている舞台上では、財団の安藤さんとスタッフの宮岸さんが明かりの輪のなかに立っていた。明かりの再チェックらしい。左舞台奥では、音楽隊が稽古を重ねていた。音の高低、強弱、リズムの変調。途中民謡が入ることになったりして、こちらもどんどん変化している。入る曲の変化で、芝居のイメージがよりはっきり広がるようにしているのだ。
その音楽隊が前方の左花道に立つ。
まっすぐに見える舞台の両端には、縦二列に空き椅子が並んでいた。
ゆかたやじんべえ姿の出演者が祭り見物の人波になって座るのだ。
12時30分
直前に渡された構成表のナンバーが(11)になっていた。「11」番が一番新しいのです。古いのは捨てて下さい」と今尾さんが言っている。
今日は通しのリハーサルはない。ざっと、音楽、きっかけ、出る、はけ、を順番に追ってやっていくだけ。
「舞台を終った人はかならず一度引っ込んで下さい。椅子の間、通れるように作ってあげて」森田さんのチェックが入る。
「花火大会を見に来られた、俳優でコメディアンでもある小松政夫さんが、ゲストで出てくれるそうです」と森田さんが言って、小松さんが舞台に上がると、うわぁと歓声が上がった。小松さんも一緒に出る、はけをやって、「ここで出て下さい」ってなことを袖で言われて頷いている。
本番 2時
音楽隊、位置につく。
次にゆかた、じんべいの出演者がゆっくりと舞台に進んで。
民謡の一節で明かりが消えた。
朗々と民謡が流れ、それに重なるように楽隊の音、お囃子が入り、うわっと賑やかになった時、男衆の素朴でエロチィックな「ひょっとこ踊り」が明かりの中に浮びあがった。
「ひょっとこ踊りがとてもうまくなってるから、できるだけライトの側をね、踊ったらいいと思う。後ろに大きな影になって、すてきだから」
スクリーンみたいな後ろの幕に、清子さんの言ったとおりの、ものすごい大きな影が右や左とひょうきんな動きを描いている。
本番の中から
写真を撮っていたテイヨが土曜の本番直前、ホームスティの留学生カール役で出演することになった。
「「ヨハネ・パウロ」も死んでかわいそうやったね。ポーランドにもお盆てあるがね」と色々話かける女の子。突然パンと音がしてドキッとする。カールが手で蚊を殺したらしかった。昨日なかった音だ。おうっ、さすが、ひとつ加えている。
「デパートガールと独身男」
「東京の話のところで自動ドアが七枚あるなんて言って。ああ言う風に作っちゃうと。お客には受けてたけど。あれやっちゃうと、後でやる東京駅が三キロあるってのが嘘になっちゃうの。あれはあの子の混乱の実感なんだからね。これは間違ってます」とダメを出されていた男性は、今朝は「嫌いだって、わかるようにやっちゃだめ」と、今度は違う部分にダメが出た。「僕は嫌いじゃないんですけど」と男性。混乱している。これはやってる方はなかなかわからないのだが、好きな子にはスカートめくりしたり、いじわる言ったりする、これと同じ原理なのだけれど。
男性は宮崎の独身男を頑張ってやっていた。
「地球は丸いってしっちょった?」
海の水平線の向こうは滝みたいになっちょると思っていたと言う女の子の話。子供の頃、山に沈んでいく夕日が、ぎりぎり山の近くで、すとんと落ちると見ていたことを思い出した。勿論地球の下をぐるっと回って太陽は上がってくると思っていた。
祭りが終って、力なく座り込んでいる男たち。祭りコンサルタント会長の小松さんの熱のこもった挨拶。それを聞いて感激の面持ちの町会長のイッセーさん。後ろで男達の喧嘩が始まって、ふたりはその場を逃げ出していく。
ちらちらと明かりの照らされた幻想的な雪が降ってきて。思わず見物客が立ち上がる。男達も気づいて。空を見上げる中、明かりが消えていく。
宮崎財団の横山さんのコメントを載せたいと思う。
つくばの初日と二日を見たときに、宮崎はもじもじくんが多いのでうまくいくだろうかと、ほんとうに不安でした。始まって初日、ああ、やっぱりと不安は的中して。でも夕方、二日目と、なんとか宮崎のこれでもいけるのかなあみたいなものが、少しは出てきて。ここまでこれました。ありがとうございます。最後の自己紹介で、「最初にこれだけしゃべってくれればねぇ」って、きっと森田さんに言われると思っていましたけど、そのとおりでした。
もうひとつ最後に。
ひょっとこ踊りのハッピ一式、子供達がきちんと畳んで、中に手拭い、ふんどし、帯にしていたサラシを挟んで返してくれ、又浴衣を着た女性たちもちゃんと畳める方が多いと聞いて、誰かが言っていたように、宮崎は日本最後のヤマトの国かもしれないと思った次第です。