光りで遊ぶ
今回の二日間にわたるワークショップは照明家をそだてるためのものではない。「イッセー尾形のつくり方」と同様、技術的な事ではなく、イッセー尾形・らなりの「照明の中椎」だけを抽出して体験させるものだ。
イギリスの照明家ポール ラモンさんを日本に招待して、オフィスのフーリガンたち五人に照明を教えて頂いた時、ワークショップの期間は五日間だったが、今回は参加者の数がその6倍、期間はたった二日間だ。ポールさんの教育は「才能を引き出す」作業だったのに対し、この二日間で引き出そうとするのは参加者の「興味」だけだ。演出家の森田いわく、「かなり乱暴な企画だ。今回で技術を教える訳ではない。しかし、興味さえ持ってくれる者が生まれれば、勉強は後でするでしょう。」
だから、ワークショップの教師を勤めた太君が簡単に灯体の違いを教えたら、森田がいきなりワークショップの手綱を握り、参加者達にシーン造りを命じた。取りあえず、すべての照明を一度順々に点けて、どんなものであるかを見せてから、「チームを組んで何かのシーンを作って。使える灯体は三本だ。番号と光量を照明室の方に聞えるように大きな声で言ってね。」という一言がワークショップの本当の始まりだった。
一言も日本語を喋れないポールさんの通訳を勤めた私は、そのゆったりとした丁寧な教え方を思い出しながら、どうすれば良いかわからない今回の参加者達を見ると、こんなにも唐突じゃなくても良いのにと感じた。しかし、それと同時に「さすがだ」とも思った。二日しかない中、照明の味をしめるには、即本題に入るしかない。最初の二つのチームがそれなりの雰囲気のシーンを作るが、星模様の特殊効果や、鮮やかな色の罠に填るチームが続出する。
一とおり作り終えると、良かったチームと悪かったチームを左右に分け、自分が良かったか悪かったかわからなかったチームがそれ相応に中途半端に真ん中当りに座ってもらった。特に差別化する目的ではなく、意識してもらうためだろう。
最初の指示を出した後、シーンの調整を行う。調整する内、シーンがどんどん良くなるチームとそうでないチームがある。この時も、何人も決まって陥る幾つかの罠がある。最初に一言説明をすれば九割り避けられるが、他人の失敗をみて学ぶのも悪くはない。
明日は、言い渡される状況を光りだけを使って描写する事になるが、今日はあくまでも参加者達自身の想像をもとに創作する。朝霧のグランド、ビーチパラソルの下、オフィスビルの中など、モデルは様々。意欲的にも難しいシーンに挑むチームもいれば、おとなしく簡単なのを選ぶチームもいる。どちにせよ、光りだけでは環境が再現できる訳ではないので、重要なのは観客の想像の助けになるか邪魔になるかだ。
参加者の数が多いので、もう一度同じことを繰り返すと一日目が終わる。明日は、実際にイッセーと小松政夫さんの二人芝居の照明を吊ってみる事になる。

生まれて始めて手にする照明図を見る参加者。訳のわからない絵や英数字がぎっしり書いてある

イッセーの芝居で使われる灯体の種類を説明するふとし君。この説明の後、そく実践に入ることになる

ノートを取っても、使う灯体の種類が限られている。重要なのは器材ではなく、光りの使い方だ

落下防止のワイヤだけは忘れてはいけない。灯体が頭に落ちればただではすまない。

簡単な説明後、いきなりシーン作りに入る。先ほど一通り見せてもらった光りの記憶と、少しわかって来たこの照明図だけがたよりだ
ワークショップ日記一日目
正直言って何をどうしたらいいか、何をどうしたのかわからないまま終わってしまった。
説明を聞いてなんとなくわかっても、イメージは浮かんでも思い通りいかない。いや 、いくはずがない。ホテルに戻るまで、そして戻ってからも疲れとうまくいかない苛立ちで煮え切らない 気分をひきずっていた。しかしその反面、あっもしかしたらこうすれば良かったんじゃないかと考えたりもし てる自分もいる。まったくわからないクセに生意気に考えてる。
「ビルの谷間」を「田舎のあぜ道」にしてしまった私が考えている。もう1度やってみたいと思ってしまっている。なんとも不思議だ。このなんとも言えない気分が一日目の収穫だろうか。というよりこれが森田オフィスの作戦ではないだろうか。
そして、明日もダメって言われるだろうか。でもダメなものはダメで良いものは良い、こんなにわかりやすく言ってもらえることはなかなかない。このハッキリしたテンポの良さが心地よくなっている。
これも森田オフィスの作戦に違いない。絶対そうだ。しかもまずいことに明日も不安だなあと思いながら、楽しみになっている。森田オフィスの皆様、作戦は大成功です。
15分程度前に開場に着きました。10分前には半分以上の参加者がイスに座って待っている状態に。ペットボトルのお茶をいただき、ノルマのどら焼きをほおぼばります。何となく人が集まってくると、ワークショップの始まりです。
はじめに、森田清子さんが説明を始め、四国の県が4つ言える人は採用されない、とおっしゃいました。私は反射的に愛媛高知香川徳島、と頭の中で4つの県名を確認してしまいました。
いきなり不採用確定です。これはマズイ。
現在の照明スタッフが、何も知らないところから5日間のワークショップを経て海外公演までちゃんとこなしたこと、会場の飾り付けなど、スタッフが毎回手作りしていることなど、簡単に「ら」の活動の説明があり、早速、ホールへ移動しました。
はじめに、灯体の4つの種類について、「ふとし」さんが説明してくださいました。
エッジがぼける「フレネル」、
エッジが わりとはっきりの「トツ」、
トツよりもっとくっきり、自由に形を切り出せる上、ぼかしも可能な「ソースフォー」
そして頑丈だけが取り柄の「パー」。
全部「ソースフォー」でいいじゃん、と森田雄三さんがチャチャを入れますが、ソースフォーは会場によっては用意されていないこともあるそうで、基本的にはフレネルとトツを使うことが多いのだそうです。
会場には、昨日まで小松さんのひとり芝居で使っていたライトがそのままの状態で吊ってありました。これを1番から順につけて、吊り位置とあたり方を確認しながら、ときどきスタッフの方から簡単な説明が入ります。
バック、サイド、トップ、フロント...
同じ灯体でも吊る位置によって使い方が違います。また、いくつかのライトの明るさを10%から徐々に明るくして、あたり方を見まし た。同じライトでも明るさによって雰囲気の違うシーンができそうです。
仕込み図と照らし合わせながらひとつひとつの明かりのあたり方を2回ほど通して見 た後、早速課題です。3種類の明かりを使って好きな「場面」を作ります。「何をするか、分かった?言ってごらん」と森田さん。参加者は「頭に思い描いた状況を...」「3つの明かりを作って、物語の場面を...」と一生懸命説明するのですが、「学校的な答えだ」と一刀両断されてしまいます。
「もっと簡単でいいんだ」と森田さんはおっしゃいますが、いえいえ、それが難しい のです。
参加者は次々に指名され、答えられないと容赦なく飛ばされます。「海辺の夜明け」「夕焼け」などなど、とにもかくにも具体的なシーンが出てくるよ うになると、さっそく課題開始。
参加者が多いこともあって、全員がやってみることは無理なので、ペアになって課題に取り組むことになりました。雰囲気のある場面上手 ノ作るチームもありますが、なかなか難しい!ひとつひとつの明かりを見て思い描いた状態と、組み合わせて照らした時の状態が全然違います。
あ、違う。と思った瞬間、森田さんが「ダメだね、こりゃ」ときっちり駄目押ししてくださいます。
飛び道具的な38番(5つの☆が床に照らし出されます)を使うチームもいくつかありましたが、面白いから使ってみようと思っても、良いシーンには仕上がりません。結局、38番は使用禁止になりました。
あともう少しでいい感じ!というチームには、時々、手直しのヒントが入ったりもしましたが、手直しも含めて合格したチームは半分にも満たなかったのではないでしょうか。
もう一度、1番から通して明かりを見た後、再度トライ。森田さんからは、3つ使って良いことになっているけれど、基本的に、ひとつの明かりだけでシーンを作る。残りの二つは補助的に使うだけ。ポイントをひとつに絞ること。と、いうアドバイスがありました。
さて、2度目に挑戦すべく、パートナーと相談するわけですが、これもなかなか難しい。あの赤を30%くら入れたらいいような気がする、と主張しても、相手は赤はきつすぎるからやめた方がいいと言う。30%だからそんなにきつくはならないと思うんだけど、と言いたくても、こっちも素人、自信がない。
見て憶えた明かりを頭の中で組み合わせてシーンを作り、それを相手に見せることができないまま説得しなくてはならないのです。今ここで 試してみることができたら話は早いのに、と本当に歯がゆかったです。どのようなシーンにするか、相談がまとまらないまま先にトライするペアの作品を見 ていると、あの明かりを使ったら良さそうだ、あれは私だったらこっちの明かりを使いたい、などなど、いろいろアイディアが浮かんできます。
が、とにかく、お互いに相手の言っていることがイメージできないまま話がまとまり ません。やっとまとまったと思ったら、直前のチームとほとんど同じ明かりになってしまい、 新しいアイディアも浮かばないままマネっこのような場面ができあがりました。森田さんは「サイドの明かりの使い方が違うし、いいんじゃないの」と言ってくださ いましたが、消化不良な気分が残ってしまいました。
3度目は少し難しくなり、あらかじめ場面を限定し、その場面を作るという課題にな りました。
「なんか言ってごらん。難しそうなのがいいな。」と森田さんが次々に参加者を指名 します。突然のことに絶句してしまう人は飛ばされます。そろそろ順番が回ってくる、と分かっていても、焦ってしまうばかりですし、その後 そのシーンを自分で作るのかと思うと頭はもう真っ白です。
そうこうしているうちに、お題が出そろいました。
「洞窟の中」
「雨が降る フ舞伎町」
「ビルの谷間」
「朝もやの野球場」
「森の影」
「電気のつかない部屋」
「公衆電話の中」
「海辺のパラソルの下」
「昨日つぶれたキャバレー」
「交差点のど真ん中」
どれもこれも、一体 どうすればいいんだ、というお題ばかりです。
休憩を挟んだ後、再開です。始める前に、スタッフの3人が お手本を見せてくださいました。ところが、私たちのチームが休憩中に考えた「洞窟の中」が、3人目のスタッフさん の「洞窟の中」とほとんど同じだったのです。しかも私たちは2番手だったので、あ のタイミングで「洞窟の中」をやってしまうといかにもマネをしたみたいになってい まってどうしても嫌だと思い、順番を最後に変えて貰いました。
他の皆さんは だんだん上手になってきて、なるほどー、というシーンが出てくるこ ともありました。「昨日つぶれたキャバレー」を選んだチームが赤やブルーの明かりをつけると、「時間はいつ頃?」「窓はどこにあるの?」「光源は何?」と森田さんから質問が飛 びます。
森田さんが手直しをした後、SS(横からの明かり)を付けたり消したりすることで ドアの開閉を表現するテクニックを見せてくださいました。場の雰囲気を作り、登場人物にどの角度から明かりをあてるかを考えると良さそうで す。
「朝もやの野球場」チームは なかなかいい感じだったのですが、朝もやを表現した つもりのSSが森田さんには朝日に見えたようで、「それ、朝日でしょ。朝日が二つ もあるのはおかしいね。」とコメントが入ります。「朝日ではなく朝もやです」と反 論しても、やはり「光源は何か、考えないとダメ」という アとで、SSをひとつに減らしました。朝もやというよりは、朝日がまぶしいさわやかな朝になってしまったので、少し手直しすることになったのですが、直せば直すほど朝もやから遠のいていき、「ダメだね、こりゃ」が出てしまいました。残念。
「公衆電話の中」もいくつかのチームが挑戦しました。あるチームには最初 いくつかダメが入りましたが、手直ししていくうちに雰囲気のあるシーンに仕上がりました。そしてそれ以降、「公衆電話の中」は禁止になってしまいました。
「交差点のど真ん中」チームはSSで両サイドから照らします。バックのパネルにあてる色を変えると季節感もでるし、なかなかいいじゃないか、というコメントが出ていました。
「海辺のパラソルの下」チームは、バックから人を照らして影を作るなど、やりたい ことのイメージは何となく伝わってくるのですが、できあがる図が何となく物足りない感じです。サイドから明かりをあててみるなど手直しが入ると、ぐっと海辺っぽい感じがでるようになりました。
場面を作る課題が終わると、今xは仕込みの話になりました。明日は、今吊ってある灯体を全部おろし、「イッセーさんと小松さんの二人芝居」用の灯体を吊る作業をするのだそうです。そこで、仕込み作業について、森田さんの「しごき」があった後、灯体の吊りおろしの実践です。まず、ふとしさんが灯体の吊り方とおろし方の説明をしてくださいました。その後、ひとりが指名されて、実際に灯体を降ろしてみます。
もうひとりが指名されて、隣の灯体を降ろします。そして次に指名されたのが私。今度は「実際に吊ってみて」と言われたので、何も考えずに前の人が降ろした灯体をもう一度吊り直しました。
手順はばっちり、どうだ!と思って作業を終えたの私ですが、「彼女は今、基本的なことを間違えた」と森田さんに言われてしまいました。手順を思い返しても、「基本的な間違い」と言われるようなことはしていないはずだ けどな、と思っていたのですが、何と、こともあろうに、吊る灯体の種類を間違えていたので す。
いえ、正確に言うと、間違えたのではなく、仕込み図を確認しなかったのです。仕込み図を確認しないまま、前の人が降ろした後遠くによけられていた灯体をわざわざ取りに行って吊ってしまったのです。上出来だと思っていただけに、あり得ないミスをしてしまった自分が情けなく、がっかりです。
そんなこんなで、ダメダメだということを嫌と言うほどたたき込まれた今日一日でございました。明日はガンバります。