中々言えない「御意見無用」

二日目の今日は、のんびりとしたペースで進む。開始時間の三十分前、会場ではすでに稽古が始まっていた。劇場への階段を上がっていると、演出家の森田は早めに来た参加者に「他人の歩き」の練習をさせていた。面白いことに、今回は「見本」となった参加者の歩き方の細かい特長を真似ようとしながらも、一番目立つ「首の角度」に注目する人は殆どいなかった。

全員が集まった頃、本稽古に入る。昨日も少し話題に出た、意図的に馬鹿な振りをする人達の話をする。明らかに「私は馬鹿だ」という格好は一心太助が体に掘った「御意見無用」という字と同じ意味だ。数年前にはやったズボンが落ちそうなファッションや、いわゆる「顔黒」メークは自動的に「構うな。近寄るな」を発信する鎧のようなものだ。そんな格好さえすれば、回りの人になにも言われずに過ごせるし、何か言われてもすでに「私は馬鹿だ」と返事をしているので対応が楽だ。

しかし、殆どの人は良い子すぎてそこまでは割りきれない。次の稽古では、そんな良い子が何かを言われたらどのように意思表示をするかを探る事になる。親になにかを言われる子供が嫌な声を出しして、とりあえず言葉でなくても「嫌だ」という事を伝えるし、どの親にもそんな場面で使う独自の対処法があるはずだ。

最初は上手く行かないが、色々な声の出し方があると気付くと、参加者もだんだんと乗って来る。だれもが必ず家族だけにしか見せない面を持っている。場合によっては、それが外見とは不釣り合いだったりもする。そんな特殊技のようなものは普通の生活では恥ずかしくてさらけ出せないが、舞台上では並外れた新鮮さと親近感を生み出す。

「切れる」ことにも挑戦して見る。ちなみに、「切れる」の語源は「堪忍袋の緒が切れる」で、「逆切れ」は元は叱られたり怒られたりする者が逃げ場を無くして攻撃に出ることを意味していた。この「切れる」行為は、使い方次第ではとても効果的な伝心手段だ。私の高校時代の数学の先生は、決して本気で怒る事がなかったが、怒る芝居は名優なみだった。丸い眼鏡の後ろの目が急に氷山のように冷たくなり、胸まで伸びた立派な赤髭の奥底から響く声が雷のように轟くと、大抵の事態が一瞬にして収まったのだ。この「切れる」行為には敵意も憎悪も一切こもっていなかったので、静粛が戻ると一瞬にして空気が澄み切る。

舞台上でも効率的に「切れる」には、その行為と自分の間に距離をおく必要がある。自分ならどうするという事にとらわれず、タイミングと感覚を一瞬にして捕える事が重要だ。うまく行けば、その後冷静になり、色々な転換が生まれて来るはずだ。

稽古は「貶される人」人などを経て、どんどん進む。話が進むと、森田は参加者に指示をだす。「間を取って。」「話を変えて。」「間を取って。」「いいよ。どんどん奥まで入っていって。さあ、何をいいだすかな。」

科目によっては話せる人と話せない人が違う。しかし、中には延々となんでも話せる人もいる。きっと話し慣れているだろう。アンドロメダ星雲は今、自分が子供だった時よりも150光年も遠くなっていることに納得できない事を延々と話とおもったら、サンドィッチの語源に付いてもインチキ情報も延々続く。ワークショップの狙いとはちょっと違うが、この特技は有効に使えるはずだ。

勢いが付いた所で、試しに椅子を前に並べ、参加者達に舞台上での芝居に挑戦してもらう事にする。森田が皆に円陣のまんま、一斉に互いを指をさしてもらい、相手を選ばせる。お互いを選んだ人がチームを組み、他にもメンバーを選んで家族を構成させる権利を得る仕組みだ。何度か繰り返す内にチームが生まれ、どんどん盛り上がる参加者がはしゃぎ始める。楽しそうではあるが、森田には弾みすぎているように見えるようだ。一端組まれたチームをばらし、別の方法で組み直す事にする。

ところが、先ほどはしゃいで選んだチームがばらされたせいか、他に理由からか、舞台では円陣での調子が出ない。どちらにせよ、明日になって再挑戦すれば乗り越えられるだろう。本番まではあと二日あるのでそんなに心配はしていない。

参加者達は、「切れる」には中々馴染めないが、イチャモンには乗る気配がある。使えそうなので、テーマとしての「イチャモン」を探って見る事にする。

円陣
円陣の稽古は弾む。こんなにもすらすらできると森田も気分が良い。

新宮組
一度だけでは飽き足りず、小倉でも参加する新宮の参加者も数名いる。仕事の都合上参加できずとも、様子だけを見に来てくれる参加者もいる。ワークショップはこれからも続けるつもりなので、機会はまたきっとあるだろう。

考える人
ワークショップは脳を使う。自分で即興で話す時も、他の参加者が話すのを聞く時も何時も、何時もとは違う思考回路を使。

休憩
休憩の時、過熱した思考回路を休ませたくなるのも当然だ。

指さし人選
「さあ、ネルトン方式だ。自分が選んだ相手が自分を選んでいればチームが組める。ようい、どん。」現実はそんな甘くない。一度結成したチームはばらされ、ゼロからのスタートとなった。

家族
夜の部では試しに家族を組んでみるが、今日は空気が生まれないので、気長に明日の展開を待つ事にする。本番まではまだ二日もあるので、焦る必要はない。

音楽隊希望
ワークショップの終わりに、音楽を担当する岡田さんが参加者の中から、音楽隊にも参加したいものを募る。各開催地で見つかる人材や得意分野が違うので、出来上がる音楽も個性的で面白い。