戦慣れ

本番二日目。今日も稽古が続く。綱渡りを終えた参加者達はいまも警戒心を捨ててはいないが、その演出家の森田を見る目は少し穏やかになっているようだ。昨日の絶望的な緊張感が少しほぐれている。自信も付いている。それもそのはずだ。初日のあの凄まじい空気を皆無事にくぐり抜けている。

今日も森田が休憩を取る度演出家イッセーが現れ、参加者たちの演技指導をする。森田とはタッチが違い、この方がわかりやすい人と、逆に森田の「輪郭を埋めるのは演者だ」という手法の方が受け入れやすい人がいる。どちらにせよ、両方見られるチャンスは滅多になく、面白い。

参加者は昨日より落ち着いている。昨日は公開稽古のつもりで、今日こそ本領を発揮しようという雰囲気がただよう。今日は全員森田の言葉を真剣に聞いている。

昨日の出演者の内、今日来れない人も何人かいるので代わりを探す必要がある。昨日来られなかった参加者を代役として入れてみると、すんなり場面にとけ込める。本番に近付くと、緊張が高まるものの、今日は慌てた感じよりも真剣さが目立つ。

開演は早めの14:00の予定だ。昨日同様当日券も売れており、二階席も一部埋まっているようだ。演目はおおまかに昨日と一緒。

第一発見者
灯りが点くと、舞台には女性が倒れている。その側には泣きじゃくる少女。後ろには呆然と目の前に見える看板を読むサラリーマンイッセー。奥の方にいる数十名のやじ馬がざわめき、余所者イッセーを怪い目で見ている。女性に近付こうとしても、少女に声をかけても、悲鳴やざわめきが聞こえる。群衆は、身の潔白を訴える余所者イッセーを避け、警戒する。
30分後
倒れた女性や少女は救急車で運ばれ、残るは群衆と余所者イッセーだけだ。しかし、群衆の「命に別状がなくて良かった」と安心しているイッセーを見る目は相変わらず冷たい。不条理を感じる余所者イッセーが「僕が何したって言うの」と抗議をすると、群衆の感情が攻撃性を増す。「この人は無実です」としゃしゃり出る人の言葉に、さらに疑いをあらわにするやじ馬たち。
謝罪
五分後。明りが点くと、そこにいるのは群衆の前で土下座をし、「申し訳ありません」と謝るイッセー。何もしていないのに、何故だという気持と、その場から逃げたい気持が重なり合っているようだ。謝罪の言葉を聞くと、群衆は解散し、最後に残るのはひそひそ話をする数人の子供だけだ。その一人が余所者イッセーに忍び寄り、後ろから靴で頭を殴ると、全員が悲鳴のような声を上げながら走り去る。一人取り残されたイッセーはしばらく黙り込んでから空虚な声で笑う。
シロヤの前
地元で有名な人気パン屋の前に三列に並ぶ客。テキパキと接客する見えない店員に一秒でも早く対応してもらいたく押し合う中年女性。その横で東京の家族と電話で話す余所者イッセーが、少し警戒しながら様子を見ている。
井筒屋の時計台前
ベンチに座った母娘の様子が少しおかしい。呼び出された理由を聞く母に、娘は「なにか話す事があるでしょう」と返すし、二人はまるで女学生のような言い合いを始める。娘が両親が会話をしていない事が心配なようだ。通りかかった父が二人の間に入り、「長年一緒に暮らすと話さなくなるものだ」ときっぱり断言する。
インテリの人
小学生にマジェラン星雲の距離をかたるインテリなおじさん。小学生に「太陽は何故燃えているのですか」と聞かれ、元素の誕生を熱弁しはじめる。
満員電車
門司港行きの満員電車が終点の前に立ち止まる。そこには余所者イッセーも乗り合わせている。鞄を引っ張ろうとすると、一瞬痴漢騒動が起きるが、電車がまた動き出し、終点に着くと全員が降りて分散する。
メカリ公園
公園に散歩に来た夫婦。妻はベンチに座り、夫は芝生の上で夢を語り出す。今の仕事をやめたい。画家になるのが昔からの夢だった。妻は静かに、幸せそうに、子供ができた事を夫に話す。しかし、夫にはその言葉は重荷かもしれない。側によって、肩に頭を乗せ、「貴方の子供よ。嬉しいでしょう」と言うと、夫の顔が強張る。
ロマンチック
海峡の上になびく鯉幟はロマンチックだと話す女性。同伴の男性が口にする宇宙人の話しもロマンチックに感じるらしい。
憧れの先輩。
先輩と一緒に歩きながら、頭の傷が十円禿げにならないかとか、お玉杓子が大好きだとかはしゃぐ中学生。いきなり立ち止まって遠くの方へ叫ぶ先輩の側に陣取り、幸せそうな表情で一緒に声を張り上げる。お玉杓子よりも先輩の方がさらに好きなようだ。
昭和舘
映画の2本立てを黙々と見る個性的な観客達。ジュースをすすりながら紙袋の中身を取り出しては食べる男と、それを注意する女。自販機から出て来たのはコーヒーではなく、牛乳だけだと独り言のように愚痴る男。落とし物を拾いに来た余所者イッセーが入って来ると、鼾をしながら寝ている客が椅子から落ちる。
リバーヲーク
オープンキャフェでの他愛のない会話が続く。
威張る二人
仕事場の同僚。小柄の女性の「私の立場はないじゃない」という攻撃に対し、体格の良い方は「ごはんを注文する時は、私の分を大盛りにするのは辞めてよ」と返す。
大阪弁上司
大阪人の上司の顔色を伺うへりくだる部下。服装も上司を引き立たせるように選んでいるらしい。
気まずい三角関係
公園のベンチに座る女性二人。買物やテーマパークの話をするが、明らかになにか訳があるようだ。一人泣きだすと、もう一人は男を横取りしたのは誘われたからと弁明する。そこに男が表れ、実は奥さんも子供もいる事が判明する。
夕方の一時
公園に立っている男女二人。「口紅変えようかな」と言う女性。未確認飛行物体を見たという男性。夕日に馬鹿野郎。
貶され上手
彼氏を貶す女。男は気にする様子もない。頭のうすさを指摘されても、「そんな事はない。雨に敏感なだけだ」と穏やかに受け流す。
孤独
アパートの中の男女。話ははずまない。女性が上着を脱ぐと、男性もしばらく為らってからシャツをぬぐが、その後どうすればいいかわからなくなる。やがて女性に背を向けて体をよせる。寂しい二人が欲しているのは静かな温もりだ。
詩吟の母
母子。息子は仕事に付かず、楽隊に勧誘された事を喜ぶ。母は息子に、新しい趣味の事を話す。平和な二人の穏やかな関係。
タコの滑り台
妹の家に立ち寄った姉。公園にあるタコの滑り台で一緒に遊んだ友人が三回も結婚しているのが許せないと愚痴をこぼす。
500万貸した女
別れ話をされた男は優しくなる。
動物園
動物園を見に来た子供三人組み。子供を生むのも育てるのも、狩をするのも雌だから雄はいらないだろうとつぶやく。見ている動物は恐いながらも可愛いらしい。
チンパンジーの芝居稽古
同じく動物園に来た大人三人組み。男性一人は女性二人よりも一世代上のようだ。チンパンジー達の名前を知っている女性が、その一匹にものまねをさせる。男性が嬉しそうに、チンパンジーが憧れの国定忠治に似ていると言い、芝居をつけ始める。側から様子を見ているのは余所者イッセー。
お金返して
デートの度に嫌いな所に連れて行かれる女が「お金を返して」。すると、男は結婚を申込む。
美容室と理容室
女性三人組み。それぞれが勝手に自分の話題。
競馬場の牛丼
競馬場で何故牛丼を出すのかが疑問の、かって気ままな女性二人。
スターバックス三組
キャリアな女性三人組。背筋を伸ばして気取った様子。黒くて斑でも台湾が良いとか。
モデルな女性三人。一人は気取る。「弟の彼女は微妙だね。」
男女二人。男は百円ショップでの買物自慢。化粧品だけは避けたら良いとか。
三組は交互に会話を続ける。
スポコン
競技場の前でイメージトレーニングする学生と監督。横から観察する余所者イッセーは泣く女学生をみて、「何故泣かす」と問い詰める。
ちんぴらアベック
通りがかるちんぴらカップル。元はスポーツマンだった彼氏は今の陸上は生温いと言いながら、ベンチに座っている余所者イッセーに眼を飛ばす。
スポーツママ
子供の競技を見て来た母三人。高揚感がさめず、一人は踊り二人は喋る。
思い出のと皿倉山
昔よく来た場所を訪れる女性二人。「ここ、前来てよかったんだよね。」「先輩いつもそういいますね。」話す内に、怪しい団体が現れ、二人は消える。
妖精の国
妖精セミナーを営む妖精先生と二人の付き人。セミナーの稽古に来ているらしい。後ろのベンチで寝ているのは酔っ払いイッセー。美しい話をする先生の声に、酔っ払いのうなり声が重なる二重奏。

今日の芝居は流れもよく、手に汗を握る事も、息を止めてしまう事もなかった。緊張感は有るものの、神経を削られるあの感じはなくなった。上手くは表現出来ないが、昨日の公演がもし新兵たちの初戦だとしたら、今日の公演は彼らが勝ち取った陣地をしっかりと守る姿に見えた。

落ち着き、力が少し抜けた様子だ。駄目出しをする森田も満足なようだ。明日は最終日。満足はするものの、安心してはいけない。明日はさらに先を狙って、限界に挑戦をしてほしい。

音楽隊
小倉音楽隊も格好良い。ここでの主役はマンドリンで、その優しい音色はホテルに帰ってからも頭の中で鳴り響く。

シロヤ
地元で有名なパン屋の前。列を作るお客さんを見ながら東京の家族と話す余所者イッセー。

パパとママ
パパとママが会話をしない事を心配する娘が母親を呼び出すが、中々本題を口に出せない。通りかかった父親は二人の間に座り、きっぱりと夫婦が話さないのは当たり前だと言い切る。

満員電車
門司港行の電車の中。サラリーマンイッセーが行く先々で電車がなぜか何時も混んでいる。

インテリの人
インテリの小父さん、子供たちに宇宙の話を解く。単純な質問をされても、嬉しくなって細かい事を話しだす。

貶され上手
彼女にけなされても全く動じない男。付き合うのならこんなタイプが気楽かも。

二人の会話
コーヒーはやっぱりエスプレッソだという彼女と、買物し上手を自慢するかれ。百円ショップの化粧品だけは避けた方が良いとか。

スポコン
頑張ったのに相手チームに負けて泣き出す中学生。慰めるコーチが、サラリーマンイッセーには泣かせる張本人に見える。

妖精の国
おとぎの国と酔いつぶれたエトランゼ。寂しい男は赴任先で骨を埋める覚悟だ。