そして平安

最終日もあり、そして昨日の公演も上手く行ったので、今朝のワークショップ会場は本の少し祭り気分だ。

稽古は、参加者達が変えたい所や新ネタを演出家の森田見せる所から始まる。会場には新宮の参加者も何人も来ており、飛び入り参加を狙う者もいる。しかし、ワークショップ直後の、しかも二日もの修羅場を抜けたばかりの小倉参加者の集テンポには追いつかない。せっかく挑戦してくれたものの、今回は惜しくも客席から見てもらう事になる。

稽古を続けると、時間が過ぎるのは早い。気付かない内に開場の時間だ。泣いても笑ってもこれで最後だ。全力をぶつけて欲しい。

演目は相対的に昨日とさほど変わらないが、即興で試したい事を付け加えている者もいる。シャツを脱いだ男は今日、臆して同室の女性の側に座る事すら出来ず、「買物に行って来る」と逃げて行った。そのシーンが終わるまでポツンと一人取り残された女性は、上着を羽織りなおし、寂しげに帰って来ない相手を待つ。

母娘喧嘩に割り込んだお父さんは昨日、家族だけではなく観客にも声をかけたが、今日は舞台の方に徹している。「夫婦ってそんなもんだ。ねえ、皆さん」と振っても芝居が崩れないのは、もともとのキャラクターが存在感が強いからだ。

詩吟の母の衣装は、今日も格別だ。美しい着物を着た彼女は、堂々と歌いだす姿が印象に残る。優しいだけが取り柄の息子が、楽隊に誘われた事に浮かれて、下手なマラカスを振りながら歌うクリスマスソングとはとても対象的だ。

動物園で恐可愛い動物を見ている少女は四人に増えている。彼女たちは初日からさほどプレッシャーを感じておらず、昨日も公演の途中にスタッフの残り弁当を食べに行っていたらしい。大人になって忘れてしまう傍若無人な自由さが残っている。

突然スターバックスの女性たちに話しかける化粧品のキャッチセールズのお兄さんが、彼女たちにからかわれそそくさと去っていく。

今日の余所者イッセーは、陸上競技場であきらかに古くさいトレーニングを施すコーチに、東京ではやりの走法を伝授すると決心をする。しかし、日本では古来から尊ばれ、最近はまた注目されている「常歩走法」を推奨すると、怒ったコーチが生徒の手を引っ張ってその場を去る。遠くから競技を楽しんでる群衆の歓声が鳴り響く中、一人で笑う余所者イッセー。

最後の妖精国の場面は、幕開けの場面と結び付いた。灯りが点くと、皿倉山に見えるのは怪しい集団の前に仰向けに寝ている女性と、拝むように蹲っている女子。付き人が、「先生は今、棘の道の入り口を探しておられる。もう暫しお待ち下さい」と言うと、先生がゆっくりと立上って妖精セミナーを始める。群衆に無視された酔っぱらいイッセーは、側のベンチから地獄のようなうなり声を上げ、幕は二人の二重奏でとじる。

しっかりした芝居だ。いずれビデオが出来てからもう一度見ると、さらに色々な部分を思い出すだろう。

楽屋を整理している内に交流会が始まる。会場に着くと、丁度自己紹介が始まる所だ。ここの参加者もかなりバラエティーに富んでいる。学校の唯一の女子演劇部員を支える参考になると思い、一人でワークショップに通った教師。人生の分かれ道に立ち、そんな場合ではないと思いながらも通って来た女性。明るい登校拒否者。日常から一週間だけでも抜けたかった女子。

自己紹介が終わってもしばらく会話が続く。電子メールのアドレス交換や、携帯電話のデータ通信が止まない。ここにも我々とはまた独立したネットワークが生まれつつあるようだ。

小倉ワークショップは今までの中で一番難しく、参加者達にとっても決して楽しいだけの体験ではなかった。中には自己紹介の時にもその気持をぶつける者もいたぐらいだ。問題を抱えながら通ってきた者、ほうり出したい気持があるのに、何故か無理をしても諦められず通い続けた者などは、必ず各ワークショップにいるが、ここはその傾向が他所よりも顕在だ。全体をみて、時々痛々しく感じる程だった。

稽古の合間と交流会の後、幾人かの参加者と話したところ、本当に色々な人間模様が見えて来た。最後まで通った彼らに取っては、このワークショップには全ての難門を通るだけの価値があったという事にはなるだろう。消化しきるには時間がかかるのは間違いないが、恐らく全員にとって一生忘れない経験になるだろう。

飛び入り
惜しくも破れた新宮の飛び入りチーム。演劇の内容は違い、今回は客席で見る事に。次回の挑戦に期待する。

へりくだり部下
上司を引き立てようと必死な無能部下。一度だけ体を許した女上司にまとわり続ける姿がリアル。

詩吟の母
今日も魅力的な詩吟の母。息子を思う気持も歌う姿も印象的。

映画館
客が個性的な映画館に、落とした携帯を探しに来る余所者イッセー。

三角関係
友人の彼氏が好きになった女性。三人の話合いを見てしまった余所者イッセーは、視線を背けない。

常足走法
古くさいスポコントレーニングを見た余所者イッセーは、秘伝の常歩走法を伝授する事を決心。

妖精の国
妖精先生のセミナーを見に来た群衆が余所者を無視し、その視線を棘の道を歩く先生に向ける。酔い潰れた単身赴任者は、「意地でも小倉に骨を埋める」事を決意。