谷間の体育館

今日も気持が明るいのだ。会場に入ると、館長さんがまた楽屋をのぞき、ケースに入っているトランペットを取り出す。しばらく使っていないと言いながら、慣れた手つきで手入れを始める。時間を見て、岡田さんと練習するらしい。こんなにも積極的に参加して頂けると嬉しくなる。

時間に全員が揃い、稽古が始まる。参加者が円陣ではなく客席に座り、色々な場面を演じてみる。その一人一人は確かに特色があるが、昼の部ではまだ一貫したテーマが未だ見えていない。そこで、プロデューサーの森田清子が一つの提案をする。今回は舞台を避難所にしよう、と。

この会場少し特殊で、片側にある客席よりも平な床面積と舞台の方が広い。当初は斜面になっている部分の前にさらに椅子などを並べ、奥の部分を舞台に仕立てるつもりだったが、構造上舞台はどうにでもなる。奥の「舞台」の部分をも段々にし、そちら側にも椅子を並べたら、真ん中の谷間には平な空間が残り、その全体が体育館に見えてくる。

演出家の森田もこれに賛成だ。避難所の設定には、空間に合っている意外にもメリットがある。より多くの参加者を出演させられる事だ。たかだか四日間のワークショップだが、小倉でも参加者たちが「選ばれる」事にたいして敏感に反応している。作品を際立たせるには当然少数精鋭の方が良いに決まっているが、それこそたかだか四日間の稽古だ。設定を選ぶ事によって、出たい全員を確実に出せるのなら、それにこした事はない。

「舞台」は一畳単位に区分けされ、夜の稽古はその区分けを活かした形で進む。二人組なら一畳、家族なら二畳の区画が貰え、演技は基本的にその中で行われる。プタイバシーを堅守する避難所だから隣の人の話しは基本的に聞こえない事になるが、出入りの際は避難所の礼儀を守るのも大切だ。

未だ芝居の内容が決まっている訳ではないが、今尾君は耐えず目を光らせ、森田が「これ、いいね」と言うとそのペンが走る。

今日は耳に残るのは「世の中は、馬鹿ばかり。俺は違うよ」という台詞だ。、延々と話し続けるだんせい。頭をかしげ、目をつぶって、どんなに周りの人が馬鹿かと毒づくそのキャラクターは、特に誰かに相手にされたい様子もない。演じているのはサラリーマンなので、ただただ話す彼を実際に街角で見かけても近寄る事はないだろうが、舞台上だと、少し哀れながらも興味深い人物だ。

「避難所」と言う設定の最大の難点は、「避難所だ」という雰囲気を出したがる者が出る事だ。この点を避けるにはどうすれば良いかが大きなポイントになるだろう。

イッセーと浅山君
スケッチを描くイッセーの隣でメモを取るライターの浅山君。今回のワークショップを本にするかもしれない、、、

世の中は馬鹿ばっか
世の中の人は皆馬鹿だと罵る男。よっぽど何か不満を抱えているキャラクターがリアルで面白い。

清子
今日も客席から稽古を見ているイッセー尾形・らのプロデューサー森田清子さん。その適切な助言は何時も役に立つ。三重ワークショップ「避難所」というテーマも清子さんの提案だ。

オウィエー難破術
先日も出たオウィエー教師は今日、生徒を難破している。その堂々たる態度は中々の見ものだ。

見学者
初日から客席に座り、個性的な魅力を持ちながら見学に徹している女性。稽古に参加してくれたら、きっと味のある場面が作れると思う。

携帯電話
携帯で言いたい放題。本番でも使えそう。

これから
場面は未完成でも、その形は少しずつ見えて来ている。全体のテーマが決まった以上、これからはそれに向かって進む事になる。

三日目。簡単な譜面が用意されてる。僕は譜面はわからないが、コードがあれば大丈夫。
CとかGとかFとかAmとか、簡単なコードでひと安心。ただしB♭はちょっとヤだ。立って弾くならさらにヤだ。でもそれはそれとして、この2曲を覚えればいいだけならありがたい。

そういやこの三日目、21:30になりワークショップがお開きになって、ぼくら楽器の片づけやなんかで裏へ回ったら、なななんと、イッセーさんが僕のギターを弾いているではないか。

う〜む。感激。
「♪帰り道はぁ、迷わぁない♪って歌ってください!」なんてこたぁ、口が裂けても言い出せないワタシである。
ちなみにこの曲は、イッセーさんの一人芝居で出てくる路上ミュージシャンの歌だ。

三重はとにかく、参加者が多かった。"出演できる人とできない人がいる、という風にはしたくない"という大前提も、百数十人という人数の前では、かなり心許ない。だってワークショップの半分が終わっても、夜の部の僕たちは"何か見てる様子"までしかやってない。

ところがここで、ウルトラ逆転スペシャル発想が飛び出したらしい。飛び出させたのは森田さんの奥さんだそうだ。さすがは余った弁当をいっぱい持たせてくれた恩人だ。カンケーないか。

だけどとにかく、森田さんから発表があった。

「ここを避難所にします」

おぉ〜。有象無象がギュウギュウに詰め込まれてる感じは、今の僕らにまさにピッタリかもしれない。でも、それでなにがどうなるのかなんて、皆目見当がつかない。

やがて、実際に舞台に上がるよう指示される。二人一組で、適当に区画の中へ入る。そして順番に、なんかしゃべっていく。だけど、たまたまの並び順で入ったから、段取りもクソもない。

「ハイ次」って言われても、二人のどっちからしゃべるのかさえ決めてない。だけどここでまごまごしてると、強烈にダメ出しを食らう。なんか言わなきゃ・・・。

「、、犬は、ええなぁ。。」

出た。犬だ。今日は犬がきた。

「、、シッポいっぱい振るやろぉ、」そら振るわ。

なんじゃそら。わけわからん。しかもウチのせんちょーはコーギーだからシッポないし。けどとりあえず言葉は出てくるぞ。脈絡もないけど勝手にしゃべっとけ。うれしそうな顔するとか、昔の犬はもっとエエ加減に飼われてたとか。ドッグフードなんて無かったし、適当に残飯に味噌汁ぶっかけて食べさせたり、、今の獣医さんやったら怒られるやろうなぁ、、そしたらオッケーが出た。

「子どもの役のできる相手をさがしておくといい」とアドバイス。普段子どもとふれあいが無くて、こんな避難所という場所で子どもと話そうとするんだけど、話してる内に妙に教訓めいた物言いになってくるような、そんな父親。。

ちなみに一緒の区画に入った女の人は、「昨日褒められたキャラクターじゃないのをやって」、と一刀両断にされた。ほんまにオソロシかぁ。。

そんなアドバイスはもらったものの、結構みんな既に相手を決めてたりもする。夕方ギリギリに入って、音楽隊の練習してるとワークショップが始まりかけてて、ちょっとよくわからんまま前の方の席について指されて玉砕、みたいな感じなので、なかなか相手が作れない。それに夜の部は21:30にバスが出るので、それにあわせて慌ただしく終わる。そのあとに相手さがしたりする余裕が全然ないのだ。

加えて、これは本番後の打ち上げでいろんな人から言われたのだが、なかなか話しかけたくても話しかけづらい人らしい。気高すぎるのか!?さもありなん。実は大人になってからの僕しか知らない人には想像できないだろうが、子供の頃の僕は全く人見知りするToo shy shy boyであった。こういうギリギリんとこではまだその根っこがぐぐっと顔を出す。自分からあんまり話しかけられないんだよなぁ〜。そんなこんなで、困ったゾ、と思いながらもう三日目。どないすんのよ?

一方で僕ら音楽係は、舞台が避難所になったことを受けて、"慰問音楽隊"ということになった。避難所を訪れて演奏するわけだ。何を求められるかわからないので、2,500曲くらい載ってる分厚い「歌の大辞典」とかいう本を買っていく。ここから何か選べばいいかな?著作権の関係でダメかな?

(今思い出したけど、そういやあの本、本番終わって持って帰って来るの忘れた。会館に忘れたままか?イッセーさんたち持ってっちゃったかな??)

会場内では舞台プランができていた。舞台があって客席、ではなく、中央の舞台を挟んで両側に客席がある。その舞台は16分割されており、1区画に一組の出演者が入る。真ん中に廊下があって、区画に入るための枝道もある。一組の出演者が入る、とはいうものの、それが誰とどんな組合せなのかわからない。もちろん、何しゃべるかも決まってない。

そこに一人ずつ入れと指示が出る。そこは、さっきまで他の団体が入っていた避難所、という設定。何かの事情で避難民が入れ替わるのだろう。一人ずつ入っていく。

「はいダメ戻って!」
「コレもダメ!」
「はい戻る!」

森田さんからダメ出しが続くが、意味がわからない。やがて、そのわけが少しずつ明かされていく。人はまず、壁側から座っていくもの。ハナッから真ん中へんの場所に腰を下ろす人はいない。あるいは、わざわざ既に誰かがいる区画の真隣りへ、好きこのんで入っていく人なんていない。

少しずつ、座れる人が増えてくる。僕の番だ。一歩足を踏み入れ、全体の様子をうかがう。どんな人が先に入ってるのかささっと目だけでチェックして、おもむろに空いてる区画に入る。
座る。何も言われない。よかったのかな?すると「もう少し見てようか、、」と森田さん。

うぐぅ、、なんで。。。

とりあえずまずは座るには座って、ちょっと落ち着いたらもう少し楽な姿勢に座り直して、もう一回周囲をゆっくり見渡したりしてみる。

「はい次!」

うぉぅ。よかったぁ。。助かったぁ。その後は、新入りが入口から入るたびに、一瞥したり目を凝らしたり、やりそうなことをやりながら過ごす。一回座ってしまえばこっちのもんだろう。

ところが!ンなこと思ってたら全然こっちのもんじゃなかったのだ〜。

区画は16だ。だけど参加者はそんな数じゃない。あたりまえだがすぐ区画は埋まってしまう。で、17人目はどうするかといえば、、、

そう、どこかの区画に入ってくることになる。するとそこで、来る人と迎える人の関係性が生じてくる。たとえば17人目が女性で、男性の区画に入ってきたとする。よっぽど男に飢えた変態女なら知らんが、フツウの赤の他人だとしたらあり得ない展開だ。家族か親戚か同僚か恋人か、近しい間柄ということになる。となれば、迎える側もそうした態度を見せなきゃならない。「あ、どうも初めまして」みたいな態度を見せたりしたら、森田さんにバッサリやられてしまうのだ。

こうして後から文章にすればわかりやすいけど、その瞬間にそんなことまでわかるわけがない。現に最初にいた女性のもとへ、新しい女性が入ってきた。けっこうズカズカと自然に入ってきたのに、元からいた女性が初めてみたいな態度をとった。

「はい、最初にいた人、出て!明らかに家族という風で入ってきただろー!」

みょへ〜〜!!この期におよんで、やっと見つけた安住の地を追われる先住民もいるのだ。えらいこっちゃ。頼むからオレんとこに来る奴は、わかりづらい小芝居しながら来んといてくれっ!と切に願うワタシ。

すると、いらっしゃったのは見たことのない女性であった。こりゃどう考えても夫婦だろ。自然に隣りに座ってもらってヨシである。ラッキー。そのあと、小学生の男の子も入ってきた。追われ行く先住民の恐怖におののいてからほんの15分ほどで、僕は妻子に恵まれた一家の主として胸をなで下ろしていた。ありがたや。

そしてスタッフの方から、パンフに載せる写真を撮ります、との言葉。とりあえず今座ってる場所単位で撮りますね、と言われ、親子三人なかよく写る。じゃ、本番もこの三人でええのかいな??