係わり合い

オフィスから送られた荷物の中には、出演者の記念ブロマイドを出力する為のプリンターが入っていなかったので、会場事務所のを借してもらえる事になってうれしい。しかも館長の机を借してもらえたのだ。おかげで今日は、一日館長気分でブロマイド出力の進み具合を確認しては稽古ばでカメラを手にする繰り返しだ。何度も往復すると、良い運動になる。

本番に近付くと、休憩時や本番前に参加者達が使う楽屋の騒がしさが増して行く。お互いに稽古を付けたり、台詞の打合せをしていたりする者と、やってくる嵐のまえの静けさを満喫し、家族とゆったりはなす者もいる。

今日も演目に細かい変更が加わる。冒頭の登場のしかたもその一つだ。昨日と違って、音楽隊からの登場となる。こんな大人数でも簡単に変更が出来るのは見事だ。

昨日、重要な役を担っていた人物が数名欠席だが、代役を勤める参加者はその部分を見事に補っている。前半の「小雪婆ちゃん」役の方が後半の時、見事に通り掛かりの人を無差別に隣の区画に座るように誘うお喋り婆ちゃんに変身するなど、演目の穴が埋まっている。

客席から見ると、夜の場面での寝言や鼾の大切さがしっかり感じられる。舞台が青い暗やみに包まれる時の落ち着かない違和感は見事だ。

携帯電話で話し出す女性を集団で注意しに行く道徳団や、通りがかりにいやがらせをする変体男など、新しく加わった演目もある。稽古の時、一時はパターン化の危機に陥った余所者疎外集団は本番時立ち直っている。避難所で不倫相手と会って気不味いはずの男性が、奥さんの前であるのにも拘らず、何故か積極的な態度をとる奇妙な場面もある。しかし、それもとっさの出来事だ。その行動にも芝居めいたわざとらしさがないので、被災でよっぽど動転しているのだろうと受け入れられる。

次から次へと舞台に上がっては消える参加者、避難所での絡み合いがあり、三重ワークショップは「イッセー尾形のつくり方」の初めての集団演劇だ。ここにも他公演の参加者が見に来ており、その違いに吃驚している。

想えば、演出家の森田もよくたったの四日間でこんなにも複雑なものを仕上げられる自信があるものだと関心する。また、戸惑いながらも着いて来た参加者達もなかなか肝が座っている。テーマが毎回違うので、油断は出来ない反面、ずうっとついて廻っても飽きの来ない仕事だ。

明後日始まる栗東のワークショップも楽しみだ。

場所選び
早めに着き、隅っこのよい場所を確保する姉妹。後、隣の住民が難病を患っている事に気付き、いそいそと部屋の反対端へ移動する。

告白と不幸
何故か二人かかりで男性に愛の告白をする女性。男は二人を無視し、後輩に早く結婚をし、皆のように不幸になる事を勧告する。

ジャズシンガー
被災地に現れたジャズシンガーイッセー。帰ろうとするが、アンコールコールが鳴り響き、呼び止められる。

若いカップル
人込みの中、周りの目を気にする高校生カップル。女子が大部屋から逃げると、男子が校歌を歌いながら、なに食わぬ顔でゆっくりと後を追う。

馬鹿ばかり
病気がちな弟と避難所へ来た兄。夜中、世間の人が馬鹿ばかりだと独り言のように嘆く。

夜
寝静まる避難所に聞こえるのは寝言や鼾だけ。

物音
鼾や喋り声にはびくともしないが、突然の音がすると起きだす避難民。夜中の物音だけには敏感だ。

二日目、少し早く来た僕は娘(役だよ)と少し話すが、結局なにも決まらないままリハに入ってしまう。

二日目は、昨日の内容のブラッシュアップ以外に、新たなネタを仕込んできた連中が、我先にとコレを見てほしい、とアピールする。ワークショップ前半の、引っ込み思案はなんだったんだ?って感じ。それを見ながら、組み込めるものは組み込んでいく。だから確実に、昨日とは違う舞台になる。

僕らの時間は、娘のセリフも増えたので段取りを確認。婆さんの心ない一言のあと、娘・僕の順でしゃべるということは、最初に口火を切るのは息子ということになる。ケンカしたけど仲直りした、という話だ。彼がしゃべるときには僕が背中を触ることになってたので、早速触った。

すると、「いきなり子どもじゃなくて、やっぱりなにかお父さんがしゃべらないと」

うぐっっ。。まじっすか。。

「はい、お父さんから」
「・・・・」
「ハイ!しゃべるっ!」
「、、飛行機雲はな、、一本の雲に見えるけど、ホントは・・・」

こないだの仕事でカメラマンが言ってた話だ。感謝。そして僕の合図で息子、婆さん、娘、そしてトカゲの話。

そうして最後のリハも終わった。

僕ら音楽隊の出るタイミングも、昨日は出演者が入場してからだったが、今日は僕らが先に入り、僕らの演奏の中を出演者が入る形になる。みんなは後ろの扉から入るのだが、僕ら音楽隊と慰問に来た小泉純一郎は前の扉。仲間やコイズミさんとしゃべったりしながら合図を待つ。

待ちながら見る真横のイッセーさんは、なんなんだというくらいホントにコイズミそっくりで笑えてくる。しゃべるとこれまたピンポイント爆弾みたいにコイズミ節炸裂で、さらにすごいんだけど。

音楽隊はギターの僕が先頭だ。先陣を切って入っていく。お客さんいっぱい。ちょっと快感。うそ。だいぶ快感。バンマスである岡田先生の合図で演奏が始まる。今日はウクレレやタンバリンもあってにぎやかだ。僕らの演奏に合わせて出演者が入ってくる。すると、おぉっ?手拍子が始まった。こりゃいいや。楽しいぞ。

美人のサックスと、トランペットがソロを回す。ペットはなぜか黄色いヘルメットかぶった見るからにヘンなおっさんなのだが、実は三重県総合文化センターの館長サンなのだ。30年ぶりに吹くとは思えない見事な演奏。すごいすごい。なんだか興が乗ってきたぞ。歌っちゃえ。コードにあわせて適当にシャウトする。ハハハ、気持ちいいや。

演奏終了のタイミングは、暗転してる舞台のど真ん中に、一筋のスポットが下りたその瞬間。ピタッと演奏が止まると、スポットに照らされたコイズミに会場が沸く。イッセーさんの熱演を聞きながら、そそくさと外に出てノドを潤し、後ろの扉から出演のスタンバイ。

そのあとは、またあっという間。息子も、娘も、とても上手に大役を果たした。

ただひとつ気になったのは、終演後ムスメ(本物)から、トカゲの名前について「ちんちん、って言った??」と聞かれたことだ。二日目僕は年輩のお客さんもいたので、韓流も混ぜちゃえと思って「チェ・ジゥ」って言ったのだ。それが「ちんちん」ですと?

アホか。

終わってからはみんなで打ち上げ。

森田さんやイッセーさんと写真を撮ったり、みんなで自己紹介したり。驚いたのは、演劇経験者が少なからずいたこと。びっくりした。それから、僕の息子役の小学六年生が、実は僕の妹の知り合いの子どもだったこと。そして、教員や精神科医や裁判官や、とにかくいろんな人たちが参加してたんだ、ってこと。

観に来てくれた人に感謝。一緒にやったみんなに感謝。そして森田さんやイッセーさんらスタッフ、会館のみなさんに感謝。そして5月にコレを知って即座に申し込んだ、あの時の自分に感謝。でもって、よくわからんレポートに、最後までつきあってくれたアータにも感謝っ!