大冒険
段取り稽古が続く。今までの公演では、例え特定の組が失敗しても、良い所で照明さえ消せば問題なく次の組へ移る事が出来た。しかし、複雑にからみあう小劇が、人の出入りを含めて一つの全体を構成する今回は、そうはいかない。
決められた順序があっても、次の感に人に頼らず、お互いに決めた合図を出す必要がある。立ち去るのならわかりやすいが、その場で話すだけの人もいる。足踏みをする人、特定の台詞を言う人、咳払いするする人。自分だけの舞台ではない。合図は他の出演者に対する心配りだ。
今までの公演は全て、演出家の森田の判断で進行したのだ。今回も、構成を作るまでは演出家の力だ。しかし、今回の公演は、全てを演者たちに任せた大冒険となる。
「今日の舞台は、まだ稽古のつもりでかまわない。明日までにすばらしい物に出来ればいいが、たかが四日間の稽古では、それは無理だ」と、皆に話をする森田は笑っていながらも真剣だ。
「だから、反省する点を分かれば良い。自分たちが全体の一部である事を自覚してね。舞台上では必ず困る事になる。つまったりしたら、知らん振りをするのは日常生活だ。しかし、そこで色々してみる事も出来る。舞台上では、困ったら色々やる事を人助けだと思ってね。」
「台詞の練習をしている人もいる。それも当然だ。人には迷惑をかけたくないから。でも、この芝居は人に攻められるほど稽古をしていない。トラブルは必ず起きる設定になっている。実際に現実には起きない事をするからだ。今回の舞台はそんな現実生活で起きないような事を試す場所だ。」
森田の話が終わると、もう少しで開演時間だ。後は参加者達自身にまかせるしかないのだ。
幕は、音楽隊の演奏で始まる。その後、大運動会へ招待されたらしいフォークシンガーイッセーの、マイクテストを兼ねた暢気な雨がえる一家の歌がなる。運動会は雨天決行だと聞いた実行委員は、しぶしぶ本部テントの周りに集まって来る。
お葬式のシーンも上手く行く。受付テントの向こう側に見える辞令的行列と、その裏で展開され続ける日常は対称的で面白い。
山頂のごみ拾い隊は、仲よしの外国人を連れて登場し、ここにもフォークシンガーイッセーが現れる。病院の運動会は、院長夫婦の喧嘩に拘らず進行し、頼りなさそうに見える院長は、やっぱり患者を大事にしている事が判明する。女達の祭りは、懐かしい甘酸っぱさを残して終わる。
今日の大冒険は無事に終わる。参加者達は、演出家の期待を裏切らず、任された流れを最後まで守る。いつもながらの粗はあるが、出発点としてはとても良い。森田の駄目だしは、残る問題点を簡単にかつわかりやすく指摘する。
残るのは、明日の冒険だ。今日の演技を繰り返すだけでは新鮮味も緊張感も落ちる。しかし、今日の経験と、森田の助言を糧にさえすれば、明日は今日よりもさらによくなる為の支度が整っているはずだ。折角冒険に出ているのだから、思いきって新地に挑んでほしい。

豆剥き婆ちゃんたちを指導する森田。後少しで本番だ。

雨の運動会の場面で咲く傘。まるで朝顔のようだ。

20人以上に膨れ上がった新潟音楽隊。ピアノ、琴、ソクソフォン、ピアノ、ベース、エレキギター、アコスティックギターやパーカッション等で構成されている。

山頂ごみ拾い大会。イベントの大小を問わず、何処へでも飛んで行くフォーク歌手イッセーは、山の天辺でも歌声が響く。

意地悪叔母さんの集団に囲まれる若いカップル。しばらくは耐えるものの、最終的にはその威力に耐えきれず逃げ去る。

一回目の公演が終わり、一安心。しかし、明日の公演が本当の本番だ。

公演後の駄目だし。観客が帰ってから、森田が全員を集め、明日の公演に向けての変更や注意事項を説明する。