止まらない時間

今日は雨だ。しかし、室内のキャンプ場には熱気があふれている。舞台にはいつの間にかバラックを思わせる木の柵が立ち、アウトドアな雰囲気を出している。

本番日なので、たしかに緊張は感じられる。しかし、どちらかというと、和やかな緊張感だ。昨日は上手く行っていたのに、安心しすぎたせいか、ずらずらと芝居めき、演出家の森田に怒られるチームもいるぐらいだ。所詮四日間の稽古なので、意図的に名優のような演技をしようとすれば必ず転けるに決まっているのだ。名優は意図的に緊張を生み出し、それを利用する。この段階で安心する事は、折角の支えを意図的に捨てる事に等しい。

とは言え、稽古は概ね上手く進む。お婆さん達とドライブする孫たちは上手にふて腐れ、これはいけないと必死に場を盛り上げようとする二人のお婆さんが愛らしく見える。軽の助手席で運転する部下を励ます上司は暑苦しく戸惑いながらも勇敢だ。女性二人のドライブに無理やり付いて行ったという雰囲気の駄洒落男も図太く個性的だ。どの車をとっても、決して同席して長旅はしたくない。

同僚の女性達に吊し上げられているへらへら男は、今日からへらへらなりに巧妙な攻撃に出る。理想の女性に近付こうとする若者は、右往左往しながらも、距離を縮められない。年下の好きな男に、実は自分には子供がいる事を打ち明けようにも口に出来ない女性は、まるで子供のようなさびし気な空気を漂わせる。

美容部員のキャンプもさらなる展開をみせている。昨日同僚だった、りりしい西洋人と付き合っている女性は、今日は皆の知らない人と化している。二人の小さな恋の物語を羨ましそうに見ていた四人は、その直あとに車椅子にのったキャンプ場の管理人と、元フォークシンガー管理人イッセーの二人に声掛けられる。車椅子の管理人の言葉が分かるのは、四人の内の一人だけで、彼女はあたりまえのように通訳の役割を担う。同じ男性なのに、こんなにも接し方が違うのかと思わせるその落差は、この戯曲を小さな問題作にまで昇格させる。

まえから舞台の上に描かれた円は、今日火を吹く。このキャンプ場では大きな事件が起きるらしい。その大きな事件は小さな出来事から始まる。二人の小さな子供が、お兄さんを探しに来ているが、なかなか何処にもみ当らない。二人は円をなぞりながら歩くと、次から次へと捜索隊に人が加わり、回転の速度も増す。やがて全力疾走する人の輪の真ん中に一人の男が現れ、倒れ死ぬ。子供たちのお兄さんだ。

他の転換では、穏やかな旋律を流すように弾く音楽隊は、この時だけ緊張に満ちた音をだす。最初は張切りすぎて、森田に抑えるように指示される。音楽によって不穏な空気を生むのではなく、不穏な空気が自然に生まれるのを待ち、それに音楽が付け加わるという寸法だ。言うとおりにすると、たしかにその方がしっくり来る。

ここで音楽隊に関するひと言も加えよう。いつもはベーシストの岡田さんが率いる音楽隊は、今回は私の指揮下におかれている。暢気な「何とかなる」主義者の私よりも、やはり百戦錬磨の岡田さんの方が落ち着いた安心間があるのは言うまでもない。いつもなら岡田さんの、「ワン、ツー、、」のカウントだけで安定するものの、今回はそれだけでは不安そうな参加者もいるので、思いきって指揮者振る事にする。妖しい西洋人役で登場する事もあって、どちらにせよ目立つのは間違い。そのぐらいのパフォーマンスをした方が返って絵的に落ち着くだろう。

暗転時演奏するパートは場面の展開によってそのつど決める。音楽隊には、ピアノ、チェロ、トランペット、鋸、縦笛数名、縦笛三名、ギター、そして様々なパーカッションを扱う数名が入っている。有る程度の段取りは決まっていても、寸前までどの楽器を表に出すかは分からない。音楽隊の皆さんには、緊張の連続であっただろう。我儘なバンドマスターに付いて来てくださった皆さんに感謝します。

あっという間に開演時間だ。今日は、本番の時カメラをスタッフの太君に預けて、音楽隊に溶け込んでいる。思えば、今回のワークショップシリーズの中で、唯一「参加者」として付け加わる公演となる。しかし、いや、もしかしてそれが故に、今日の公演はいつもより稽古の延長線にあるように感じられる。ただ、客席の反応や、そこから返って来るエネルギーが明らかに昼よりも強く、はっきりしている。

各戯曲の展開は早い。中には稽古の時とははっきり違う事をする組もいる。時にははらはらし、時には転換時の音楽を忘れそうになる程舞台上の展開に弾き込まれる。公演があっという間に終わると、高揚感が残り、頭が少し忘ぜんとしている。演劇には中毒性があると言われるが、それは確かなようだ。カメラを持つと客観的になれるが、こうも中に入り込むと全体像が掴みずらい。しかし、一度この空気を感じるとまた舞台に立ちたくなる事だけは間違いない。

ピアノママ
全く興味を持たない息子に、ピアノを薦めるお母さん。買出しへ出かけた旦那が手ぶらで帰って来ても、まったく気に止めない。

口論
バイト仲間の琵琶湖旅行。喧嘩はキャンプの華。

菠薐草
何故か母を連れてのキャンプ旅行。「ほうれん草を食べなはれ」という話にうんざりしたのか、「姥捨山は何処でしょうかね」呟く女性。「あたし、知ってるで」と答える母。

美容部員のキャンプ
西洋人とその連れ合いを眺める美容部員達。次に現れる車椅子の管理人と元フォークシンガーイッセーに示す態度とは対称的だ。

音楽隊
写真の少ない音楽隊。ひょんな事から指揮をとる事になり、同時には撮影は出来ないので写真には殆ど残っていない。バラエティに富んで、はらはらしながらも楽しめる。

キャンプファイアー
家族でキャンプ旅行。しかし、何故かお母さんだけは来ていない。お婆ちゃんがその理由を探ると、娘達は必死に話題を変える。

女同志
ネルトンパーティーで取り残された女性二人。相手さえ見付かれば楽しいものだ。