飾り織り
雨が続いた栗東は、今日ようやく晴れている。この所、毎日キャンプ場なのに、外で過ごす時間は殆どない。会場に入る時空を見上げると少し不思議な気がする。
今日の稽古は、昨日の公演の駄目出しをもとに行われる。大きな変更はないが、いつもの事ながら、今日来られない参加者も居るので、出演者が入れ代わる作品もある。しかも、歯磨きのシーンで、電動歯ブラシの話をする女性等、重要な人物だ。
いくつかの新しい作品もある。決して一般的とは言えない趣向を持つ女性が、夜中彼氏に首を締められたと喜ぶ。新しい家族旅行もあれば、未亡人となった姉妹の思い出と将来に対する希望を盛り込んだ会話もある。
演出家の森田は、追加候補を一つ一つ見て、指導しながら付け加える。今日の演目は小さなレストランのメニューよりも長い。今日は音楽隊の指揮をしながら撮影もする事になり、初演よりも忙しい。手元にカメラがあると、舞台から目を話せない。演出の邪魔になるので最初の内は写真を撮るなと言われ、我に帰る。言われなくても分かるはずではあるが、どうしても逃したくない瞬間が多い。
- 音楽隊登場
- テーマ1が流れてから暗転
- 歌う管理人
- キャンプ場の管理人をしながらも音楽を続けるフォークシンガー。渋い表情が人生経験を語る。
- 憧れの人
- 湖畔で歯を磨く男女6人。内二組が相次いで仲良くその場を離れると、残された二人に緊張が走る。男は憧れの彼女に近付こうとするが、敷居が高く、二人は寄れず離れられずの状態を保つ。
- 後の男
- 車に乗った女性二人と後部座席のお喋り男。びわ湖大橋って蜃気楼やねんて。」「浜名湖はフランス語やねん。」二人を気遣っているのか、雰囲気が読めないのか、話が止まない。
- 旅先輩
- 軽自動車で渋滞にはまった男性二人。先輩は「広田、人生は旅だ。会社へ出て来いよ」、と出社拒否の後輩を励まし、職場復帰を促す。部下の「課長、僕の事を2課のお荷物だと思ってるでしょう」に返す言葉に迷うが、少し考えた末元気よく「旅には荷物が必要だ」と答える。
- 泣く彼女
- 歯磨きする4人。いきなりしゃがんで泣き出す女を励まそうとする男。あとの二人は努めて別の話題をする。「電動歯ブラシなのに何で手を動かしてしまうだろう。」
- お母さんと一緒
- 車という閉じられた空間と渋滞の旅。「お婆ちゃん、うるさい」と言われて泣く母と隣に座る妻の関係への介入を必死に避ける男。
- 不倫ドライブ ポポル伊佐(夫)[日休]→松本寛
- ドライブ中の男女。夫婦ではさそうだ。黙り込む男性に喋り続ける女性。変わり始めた関係の挽回をはかるかのように明るく振りまいている。
- 男
- 歯磨き。美容部員四人組。彼氏が欲しいと盛り上がる。突然目の前を通る長身の異人を全員で振り向く。話を再開すると、今度は小柄な娘と前を通る。女性達がまた目で追い、話をすると、その娘が泣きながら戻り、異人さんが少し送れて叱りながら早足で追う。静まり返った彼女たちは、側から突然聞こえる男性の声に驚かされる。ハッとみると、そこにいるのは車椅子の管理人さんと歌う管理人イッセーだ。「ごみはもって帰ってね、だって」と、車椅子の管理人の言葉を他の三人に通訳する一人。多分知り合いにも障害者がいるだろう。管理人達はしばらく四人をおちょくり、「巡回をするから一緒に来い」とさそう。
- 喧嘩
- ベンチに座る二人組。「私やっぱり細い人より太めの人のほうがいいねん」と、付き合いだしてから五年目に始めて好みを話す。
- 好きな事
- 並んで座る男女二人。「貴方ね、寝てるとき首絞めたやろ」、と切り出す女。「あたし、うれしかった、、、」
- 家族旅行
- 家族四人組。お父さんに叱られ突っかかる娘。全員で笑う家族旅行。
- 未亡人同志
- 亡くなった亭主をゆっくりと語る姉妹。生活の心配はないといい残しながら、通帳の中身は寂しかった。姉が妹を励ます。「男はまだまだこれから出来るわよ」。
- 母上
- マザコン男と女の子。いかに愛情を表現しても、スカーフを首に巻いてあげても、求める愛情は少し違う。
- ほうれん草
- 娘とその彼氏と三人でキャンプ場へ来た母親は、一人だけ民宿に泊められた。寂しいので話題を作り、一所懸命二人に話しかける。「ほうれんそう、食べなはれ、、、」と。
- 止められない母
- ピアノを勉強するように息子に説教する母。政治の話題を持ち出しても口でピアノを弾きだす。その熱中ぶりで、買出しに失敗して帰って来たお父さんも無視される。
- へらへら男の吊し上げ
- 「商品に手を付けるってどういうつもり」と、四人の同僚に叱られるへらへら男。実は上司の弱味を握っている。
- 寮長と高校生
- 男子生徒が起こした悪さを白状させようする女性寮長。しかし、無反応な高校生はびくともしない。
- 従弟ワゴン
- ワゴン車の最後部座席にお婆ちゃん姉妹を乗せた孫達。お婆ちゃん達は盛り上がるが孫達は詰まらない。青春時の歌を歌いだし、孫娘に「うるさい」と言われると、それでも意気揚々の婆ちゃん達は力を合わせて子供たちを叱り始める。
- 電話もでえへん
- 今まで何時も一緒に帰っていた同僚が、ある時から別行動。研修旅行をきっかけにはっきりさせようと呼び出す。
- 爪弾き
- 研修旅行へ来た女性五人。初めは四人が一人をきらい、爪弾き者にするが、次回の海外研修旅行の参加者名簿に大きく影響する事をしって見方に廻る。
- 気不味いベンチ
- ベンチに座る四人組。両端の者がにらみ合うと、後の二人がはける。そこに次から次へと現れる第三者、二人の間に座っては状況を把握し次第退場する。
- 取り合いと人捜し
- 歯磨き三人組。小柄な女性の両脇にたつ長身男性は、交互に大袈裟な馬鹿話をする。そこに現れる小学生二人。「お兄ちゃん知りませんか? いなくなったんです」歯磨きをしていた三人は、少し迷った末、舞台を廻る子供たちの後を行きく。
- 事件
- 舞台を一周すると毎に新たな探し手が加わり、廻る速度が上がって行く。やがて、何十人もの全力疾走が起こす風が客席でも感じられるまで至ると、一人の男が立ち止まり、中央で倒れる。全員も止まり、前から後ろからとじわじわ集まる。医者が現れ、遺体の側に立つと、現場に駆けつけた男の母親が泣きくずれる。
- 歌う管理人、其の二
- 暗転後、誰もいなくなり、静まり返ったキャンプ場に残された管理人が、一人で歌を歌い、明日を待つ。
- 残されて
- ベンチに座る女性四人を通りがかる男性が一人、又一人と誘っていく。やがて、来る人来る人に昨日ここで起きた事件の事に関して話そうとする女性だけが残され、一人で歌いだす。結成カップルが手を振りながらその前を通る。しばらくして、下手からもう一人の女性が現れる。残され同志だと確認した二人は体を寄せ合って踊りだす。
- 芸術家
- 蘊蓄を言う兄と、芸術ぶる弟。兄の嫁は二人の狭間。
- バイト中間
- 気の強い副店長と張り合うもう一人のがっちりした女性と、その男友達。キャンプへ来ている三人のバイト仲間。
- 「ちかちゃん、男見る目ないし」
- 「よっちゃん、女の子ちゃうの」
- 「なあ、俺のことなめとんの? パワーあるしぃ」
- 何処となく中良さそうにも見える。
- 援交疑惑
- 車の親子四人組。東京バナナの「ナ」って奈良の「奈」じゃないのかと不思議がる母。突然、息子が「お父さん、こないだのミキちゃんみたいな子誰?」と聞くと、慌てて夫を褒めちぎる。そこで娘が、「5600円で買ったシャツをバーゲンで見かけた。1900円になっとった」と言うと、皆いっせいに「バカだなあ」と、ほっとしたように笑いだす。
- 子供
- 二人でドライブ。助手席で膝を抱く女性の肩に手をまわす男。すると女は、「子供のいる人は嫌いですか」と聞く。
- 別れたい
- ドライブ中のカップル。別れの切っ掛けを作ろうと、「あたし、鮫肌だ」などと自分をけなす女性。「他にも彼氏がおんねん」等と、聞こうとしない男性に別れ話を促せ続ける。
- キャンプファイヤー
- 父さんの駄洒落を冷やかす娘達。しかし、お婆ちゃんが、お母さんが何故来ていないかと聞くと努めて話題を反らす。それでも、浮気でもしていないかとうたぐるお婆ちゃん。娘達が歌い始め、お父さんもお婆ちゃんも参加する。
- 宴
- 娘の側に突然現れる人影。「きゃっ」と驚くが、それは車椅子の管理人。その言葉を「ここで昨日人が死んだんですよ」と歌う管理人イッセーが通訳し、「キャンプファイアに皆も混じっていい」と確認する。すると、一瞬にして何十人も集まり、歌に合わせて踊り出す。やがて夜も更け、管理人イッセーが解散を宣告する。
閉幕後、楽屋の荷物を有る程度纏めると、もう打ち上げが始まっている。パーティー会場へ行くと、今までのワークショップの参加者が何人も見えている。
ある三重の女性参加者に「私、覚えていないでしょう」と言われ、「そんな事はない」と答える。とはいえ、覚えているのは顔と役だけであり、名前を覚えるのが元より苦手である。あたりを見ると、そこにあるのはまるで各地のワークショップの万華鏡だ。皆に、「私の名前、思えてないでしょう」と言われれば、素直に認めるしかないのだ。
栗東は栗東らしい打ち上げだ。初日の緊張から生まれた伸びやかさは、終わった後の会話にも感じられる。ここも今日で終わりだと思うと、少し寂しくなる。
この部屋の中には、必ずもう二度と会わない人もいるはずだ。かと言うと、必ず会う人もいる。来年も全国で続けるつもりのこのワークショップは、そんな交差する糸と、二度と交差しない糸を、全国を覆う飾り織りに纏める経糸になりえるのだろうか。そんな事を考えると、何となくやる気が沸いて来る。

孫達と車の旅行へ出かけたお婆ちゃん二人。ふて腐れた雰囲気を改善しようと、あの手この手を試みるが、結果は芳しくない。

「俺、今等身大の絵を書いている。宇宙だね」と、誇らしい弟。「やっぱり最後辿り着くのはピカソだね」と返す兄。兄の妻は、二人の会話にはなるべく深く係わらないように気を配る。

不仲な仕事仲間が座るベンチ。間違って間に入ってしまった若いカップルが、その無言の殺気に驚いてそそくさと退場する。

女性に不反応な男の子。求めているのは母の愛だけ。

「私、鮫肌よ」「貴方以外にも、付き合っている男がいるの」と話す女と、別れたいという訴えに耳を傾けようともしない男の奇妙なドライブ。

お兄さんを探している幼い姉弟。公演の中間に起きる大事件の幕開けだ。

事件後の静けさに奏でる元フォークシンガーイッセーの落ち着いた歌。人生経験が物を言い、これぐらいでは揺らぐ事のない毎日は、これからも絶え間なく続く。

キャンプファイアーに寄り付く車椅子の管理人。閉幕の前の宴が始まろうとしている。

宴会の終わりを告げる元フォークシンガーイッセー。これから皆を待つのはいつもの日常。