加速

ワークショップその物は、もう七日目になるのに、結果的に私は今日で三日目だ。演出家の森田は、やっぱり今までペースを抑えていたようだ。早く出来過ぎては、作品の新鮮さが無くなるからであろう。

イッセーさんもワークショップ会場に入る。今までの毎日は公演が有ったので、稽古には参加出来なかったが、今日から三日間は毎日来る予定でいるらしい。公演ではいつもの様に、皆の作品に乱入するつもだと言う。

演出家の森田は、今日も基本テーマを繰り返す。恋愛、孤独、そして大晦日。一人、もしくはあまり好感を持てない人と二人で迎えるお正月。昔なら家族と一緒にすごすはずのお正月は、今は寂しさを感じるには最もふさわしい祭日の一つと化していると言う。

稽古は、テーマを意識し過ぎずに、誰かとの会話から始まる。

二股をかけている彼氏に、自分は実は五股であると誇る女性。

「肝心なのはコミュニケーションだよね。口にはしていないけど、あんたが色々家の事を始めてくれて感謝しているの」と、年下の旦那さんを、家に集まった人たちに自慢気に披露するファッション好きなお婆さん。

隣にいる男性に、「あたし、多分人生で最後の恋愛があったのよ」と話す女性。「その人はね、突然の事故でなくなってね。胸の中にもやもやがあるのよ」
「なにか謝る事でもあるのかな。」
「悪い事をしているわけではないのね」
「貴方が私を呼んだからきたんだよ」
「貴方のような方を呼んではいけなかったのかしらね」
女の手を握る男。女はその手を避ける。
「それはちょっと、、、こんな時にすがっちゃうからね」

姉の所に、彼氏の居場所を聞きに来た妹。その話題を努めて避ける姉。嘘泣きをする妹を、姉がおちょくり始める。

関係が定かではない女性二人。部屋の持ち主が、「何しにきたのと尋ねると、「用事を作ったのはあたしじゃない」と返す訪問者。言葉のぶつけ合いがしばらく続くと、訪問者がポケットから手紙を取りだし、「これ読んで」と差し出す。ここあたりで、二人は姉妹ではないかという雰囲気が生まれている。「あたしも手紙書いた。読んで」と言う妹。姉が差し出された手紙を読んで笑いだす。

3ヶ月以上生理が来ない妹が、姉にお金の相談をしに来ているが、姉は昔好きだった動物の話等をするばかり。最終的に、もう勝手に姉の貯金を下ろして、婦人科へ行ったと、姉の方も、「実は、私も、、、」

携帯電話の暗証番号を忘れて、ある男性に「心当たりありますか」と尋ねて行く若い女性。

特定の雰囲気が生まれると、森田が手をあげ、他の参加者達が除夜の鐘の音を響かす。

遠い人、好きな人、等、色々な関係が存在する。関係を先入観なく探ると、可能性もどんどん広がる。その反面、設定を前もって決めると、芝居にも物語にも足枷がかかる。「何故息子と一緒に帰らない」と咎める姑の設定に飲み込まれる嫁に、森田は「ペースを合わせず、まったく違う世界を作って」と助言をする。

帰る時間になっても、ぎりぎりの所まで稽古が続く。かなり遠い所から来ている人もいるので、あまり延長ができないが、参加者達は帰る間際まで色々な人物を作り続ける。明日からは、自分に合った相手を選び、本格的な作品作りに取り組む事になる。余計な余裕が無くなった初本番三日前。これからの展開がみものだ。

最後の恋
最後の恋の相手を事故で亡くした女性。心の悩みを打ち明ける相手を誤ったらしい。

彼は何処
姉の所に彼氏の居場所を聞きに来た妹。嘘泣きをする彼女をおちょくりだす姉。

狼かも
携帯電話の暗証番号の話をしに来た女性。その肩に手をかけ、「俺はお前の思っているような男ではない」と言う男性。

嫁
息子と嫁の為に最善を尽していると自負する姑。その口車にのる嫁役は、森田に別の道を歩むよう注意される。

演劇経験者と詩吟の母
劇団員も、詩吟を勉強している優しそうな叔母さんも、全く同じように扱われる不思議な稽古。今まで積んで来た経験は役にたつ時もあれば、新しい物を取得する事の邪魔になる事もある。

各地からの参加者
小倉、横浜、栗東、新潟、、、各地のワークショップ参加者が長旅をして、わざわざ遠い東京へ来ている。その一人一人の姿を見て、求めている物が見付かる事を願う