玄関の光り
東京駅のJR窓口で、「つくば行の片道切符を下さい」と言うと、係のお姉さんが本棚から分厚い時刻表を取りだし、しばらく調べてから妙な顔をし、「そんな駅はない」と言う。少し頭をかしげながら一緒に考えてみると、JRではないが、秋葉原始発の電車がある事が判明する。前のワークショップの時は、東京駅発のバスで行っていたので、なにも考えずに東京駅へ来てしまったのだ。
秋葉原へ向かうと、地下に大きな新しい駅があるではないか。電車に乗り、つくばに着くまでの一時間、去年の最初のワークショップからの色々な出来事を思い出す。
つくばでタクシーの運転手さんに行き先を伝えると、車がすぐ無言のまま発進する。カピオへ着いても黙ったままの運転手が、お金を受け取ると、札の両面を徐に確かめてからおつりを返す。国際紙幣偽造組織の運び屋だとでも疑われているのだろう。こちらも渡されたお釣の千円札を一枚ずつ丁寧に確認してから、「領収書をください」と言うと、怪訝そうに「なに、領収書要るの」と言われる。
外は寒く、地面が凍っている。一瞬、つくばの町にはあまり歓迎されていない気分になる。しかし、カピオの表玄関から漏れる光は明るい。近付くと、オフィスのスタッフや、ドア付近にいる前回の参加者達が暖かく声をかけてくれると、気が晴れる。
劇場では、今尾君が全体の流れや様々な注意事項等の説明を始めている。荷物を楽屋へ置くと、もう開始時間なので、舞台へ戻って周りを見る。今日の参加者の総人数は30ぐらいで、その約半数が前にも参加している。実際はこの数の方が演出家の森田にとってもやりやすいだろう。
去年は、自己紹介が禁じられていた。がしかし、今回は森田が上機嫌に「今日は自己紹介から始めよう」と切り出す。皆の予想を裏切るのが好なようだ。「前に来ている人だけで良いから。始めての人に優しくして、緊張をほぐしてあげてね。」
五、六人が自己紹介をしたら、今度は「なにか面白い事を言って」と、課題を変える。展開は相変わらず早いが、前回とは違って、あまり緊張感がない。新しい課題を振られた参加者は、すかさず「私、ジーンセバーグのような髪型にしたの。前からしたかったけど、ジーンセバークを知っている美容師が見付からなかったの。男には、男の子みたいだと言われるけれども、女の人は素敵と言ってくれる」、と話し出す。
すらすらと話せる人もいれば、前もって用意した話をし、途中で詰まる人もいる。森田が途中に間をおいてもらったり、別の言葉をはさんでもらったりする人もいる。一周目が終わると、新しい参加者も稽古に加わる。
母親の喋り方をたどってもらう。簡単に出来過ぎるようになると、「嫌な奴」を思い出して貰う。おとなしそうな参加者が、女の子らしくてれると、森田がその座り方を皆に真似させる。自分とは正反対の人を思い出し、その事を話させる。いつもと同じような内容ではあるが、今迄の稽古よりも大らかな感じだ。
時間があっという間に過ぎ、いつのま間にか9時半だ。これ以上稽古を続けると帰れなくなる参加者もいるので、今日はもうこれで解散だ。一日目にしては良い手ごたえだ。これなら、時間と興味のある参加者をイッセーさんが二月の2日から5日まで千住で上演する「太宰治を読む! 書く! 作る!」に参加させる事も考えられるかもしれない。
気張り過ぎても頑張り過ぎても駄目だ。稽古は明日ものんびりと続くだろう。

初日の参加者は30数人。今迄よりも、一人一人に順番が廻る回数が多くなる。

お母さんの喋り口調を思い出す。台詞ではなく、感覚を掴むと、話し続けられる。

「さあ、今度は自分とは正反対の人物を言ってみて。だれでもいいから。」

隣の人と組んで、いきなりモデルとして抜擢された人の座り方を真似てみる。考えてみると、今日の体を動かす稽古はこれ一つだった。

会場へ来る途中、喉が乾いてジュースを飲んだ話の途中に、森田の指示で優しい口調の「あたしの話、聞いてないでしょう」を挿入して見ると、物語が生まれる。

「コンビニおでんの中では、セブンイレブンのがお薦めだ」という話の所々に、「なんだよ」等を挿入してみると、何となく二人の関係が想像できる。

他の参加者の話は面白い。次は自分の番なのに、今回は初めての人も前回程の緊張感はない。