夕日と楽団
今日、つくばエキスプレスに乗る時、もう秋葉原の町が夕陽で赤く染まっている。初日や二日目の写真を見ながら、昨日のレポートを書き始める。遅れを取り戻すのは大変なので、今回は当日か次の日に粗筋だけでも書く事を決心している。宿題を夏休みの初めにするのが後で焦らないこつだという位は小学生でもわかる事だ。
今日も、駅でタクシーを拾おうとすると、運転手さんに「カピオ?何処ですか?」と聞かれる。一瞬、一日目の無言運転士の事を思い出し、又かと苛々するが、親切な人らしい。「あのカピオなら、歩いても五分もかからない距離なので、料金が勿体無いのではないか」と言う。確かに、言われてみるとそうだ。荷物もすくないので、礼を言って雪景色を眺めながら歩く事にする。
ホールに入ると、もう舞台にイッセーさんの、開いたコンパクトの形の舞台装置が立っている。その上手脇に、岡田さんとクロちゃんが音楽隊と稽古をしている。舞台の縁に座り、少し観察する事にする。楽隊志望者は楽器選びをしている。
「打楽器はほかにないかな」
「これ、スチールドラムよ」
「ええ、それって音階あるでしょう。僕には無理と思う。向いてないから」
体育座りをした女性が、床に広げた譜面を見ながら、岡田さんのギターに合わせてピアニカを弾く。数度同じ所で一段飛ばすと、岡田さんが笑いながら「はい、わかった。貴方はよく飛ばすのね」と言い、前のワークショップの時にギターを弾いていた男性に向かう。
「お父さん、ギター出来るように成った?」
「あ、あの後、全然弾いていない」
「譜面を見てメロディーをひけます?」
「練習をすれば、、、」
「いや、そんな時間はないから。コードはどう?」
「多分、、、うん、大丈夫。あ、でも一つだけ微妙なのがある、、、」
「微妙なのなんて期待していないから大丈夫よ。普通のだけ弾いて」
今度は、ピアニカとクラリネットとギターが練習する。と、皆の為に、しゃがんで譜面台変わりにって楽譜を持っている人が表れる。とても親切な行為なのに、見るととてもおかしくなる。みんな真剣なのは一目瞭然ですが、この台詞と行動を台本に書き上げたら、明らかにコメディーの部類にはいる。しかし、この場面をこんなに繊細に、面白く、そして優しく演じられる役者はまずいないだろう。
稽古が始まると、最初から良いペースだ。一番最初の、オウヌキさん、スドウさん、とイッセーさんの、全くお互いに絡まない演技で始まり、何となく昨日の「図太い」話の線は続く。
前回、大家族のお母さんを勤めた女性参加者に、より図太く演じるようにいう。繊細さを演じようとするよりも、繊細さを隠そうとする方が感じが出る。
上手く行くと、稽古があっという間に進み、気付かないうちにもう帰る時間だ。昨日同様、同じ方向へ帰る参加者を車にのせ、東京へ戻る。昨日の私の運転が恐かったのか、今日ハンドルを握るのは清子さんだ。一時間少しの帰り道、今日の課題や芝居を振り返りながら過ぎて行く。

何かと不穏な雰囲気の男性二人と、その間に座っているイッセー。話題を変えようと、「昭和の時代ってすごかったなって思うんですけど」いうと、両方からにらまれる。

なんだか良くわからないが、複雑な空気。そこで、突然英語で話しだす高校生。状況はやはりわからないが、明らかに発展性を感じさせる。

高校生が部屋へ表れると、どんな態度をとれば良いか判らない伯父さん。これも発展しそう。

女性二人は、あきらかに緊張に満ちた空気を漂わすのに、それを意図的に無視する男性。図太さの現れだろうか。たしかに本当はとても気にしているようには見える。

客席脇の通路に、またいつのまにか出番待ちの列が出来ている。