色々な恋

オフィスのロフトに泊まり、朝になるとつくばへ向かう。246沿いのガソリンスタンドによると、ガソリンだけを補充するつもりが、ラジエーター液とオイルが減っていると言われるので、交換を頼む。後ろのブレーキランプも切れているらしい。小さなスタンドには従業員は二人しかいない。先輩る方が一所懸命新入りに電球の交換方法を教え、二人は急ぎ足で車を廻り続ける。ワークショップの最中なので、必死な営業やなれない手つきも演劇的に見える。

三十分遅れて会場に入ると、稽古場が舞台から二階のリハーサル室にかわっている。暮のワークショップの時使ったクエストホールよりは広いが、やはり舞台に比べるとかなり狭く感じる。細長い白い部屋の一壁は鏡で覆われており、その前に椅子が並べられている。

「マンボーって、前から見ると目と口が並んでて結構可愛いよね。」

「うちの前にあの気持悪い看板置いたのは誰だろう。」

「、、、」

「お金返して。」

間の取り方で、まったく関係性のない会話がとても意味深く感じとれる。前日、別の参加者が使っていた台詞だ。参加者同志が互いの思い付きを借りて発展させている。近年、どんな事においても借りる=盗作と言われるようになっているなか、新鮮な風景だ。

オーソン スコット カード著の短編に、ある少年が、音楽の才能を伸ばすため、他の音楽家の曲を一切聞けない環境におかれる話がある。少年はある時、いけないとわかりながらも、ある人に渡されたバッハの曲を聞き、感動する。しかし、ばれるのではないかという恐怖感から、自分の音楽から意図的にバッハ的要素をすべてぬぐいさり、結果的にそれで事態がばれてしまう。少年は罰として音楽その物を取り上げられるが、その刑に従わずに自分の天性を追跡していく。

おおきな違和感を感じながらも、この短編は数年おきに何度も読み返している。時には一人きりで創作を続ける天才もいるだろうが、人は一般的にお互いに刺激されながら前進するものだと思う。だから台詞を自由に使い廻すこの環境はとても穏やかで創造的に感じられる。

「液体洗剤って、粉末洗剤と同じぐらい使えるとかいてある。彼、かえらへんね」

「、、、」

「今日、主人の財布の中から写真が出てきてさ」

「はい、そのぐらいで黙る。」
演出家の森田は、時にはささやきながら、時には勢い良く間の取り所を指示する。

「一応、今回はこのルールでやってみよう。関係のない事を二つ言う。相手を見る。重要な事を言う。気持を出す。用意してよ、、、」

枠があった方が、切っ掛けが作りやすいようだ。今までの稽古で出て来た台詞の貸し借りが自由に行われれるなか、作品がどんどん出来て来る。彼女にたかる、不動産を買いたいへらへら男。女子高校生にからかわれている事を知りながらも、魅せられている自分を許せない中年男性。旦那の浮気の動かぬ証拠をつかむ女性。楽器を買うばかりで、絶対に売れる見込みのないミュージシャンに貢ぎ続ける女性がどんどん生まれて来る。

一日が熱夢のように過ぎて行き、やがて帰る時間となる。候補作がそこそこ出来ている。最終決定は本番当日になるが既に仮決定をしている作品もある。出順を考えてる今尾君は、最後に、皆に明日と明後日来られるかどうかの確認する。

いや、もしかして実際に熱が出ているかもしれない。帰りの車のなか、今日の場面が頭の中で渦巻いている。写真を整理しながら一日を振り返っても、何故か混乱し、考えが上手くまとまらない。風邪ではなく久しぶりの知恵熱だと自分に言い聞かせ、取り敢えず寝る事にする。

男女と財布
相手と分かれたい男性。女性にお金を出すと、空気が氷付く。「どうせキャバ嬢だろう」。単純な場面ながらも、複雑な感情が一瞬にして生まれる。

へらへら男とムッとする女
「そんなに俺好きか」

マーライオンの二人
揺りかごってゆらゆら揺れるから揺りかごだよね。ゆれなければただの篭かな。

高校生と伯父さん
「あたし、何で来たと思う?」

小母さんだから、、、
「あたしの事、嫌い?小母さんだから?」