「息子が迷惑をかけています」

考えてみると、つくばでの二回目のワークショップだ。前回は、「公共ホール演劇製作ネットワーク事業」で行った一連のワークショップの初舞台だった。まだ一年もたっていないのに、何となく遠い出来事のように感じる。

大人数で構成した前回は、一組あたりの出演時間はかなり限られていた。作品も、起承転結はなく、デッサンの展覧会か、スライドショーのようなものだった。演出家の森田は、舞台上で展開する芝居を見守り、次のチームと場面の展開を見計らいながら、照明によって切り換えの合図を出していた。出演者にとっては、演出家が舞台上でも救いの手をのべられるという、とても安心出来る環境だった。

今回は前回よりも少し背伸びしている。各作品の構造が前回よりもはっきりしている分、切り換えらられる場所が少なくなっている。しかし、参加者も確実に成長し続けている。前回も来ていた「一期生」達は、前よりもかなり余裕があるように見えるし、その自信は今回が初めての参加者にも移っている。

昨日で、かなりの上演候補はそろったが、夫々の作品はまだ未完成だ。しかし、多い時はゆうに百人を越した時とは違って、今回の参加者はわずか数十名なので、時間的な余裕さえ感じる。一つ一つの作品を数回繰り返し、どの方向へ進むかを試してみる。

今回は、全作品が恋愛ものですが、あとの共通点は殆どない。年上の女性と若い男性の設定は二つあるが、これもかなり対照的だ。片方は力関係を強調し、もう一方はマザコンめいた性愛物語だ。

前者の女性はとにかく積極的だ。気弱そうな若者は、台詞を言っても、殆ど無言のままの印象しかない。分かれたいのは一目瞭然。しかし、反論する勇気も気力もまったくない。女性には経済力もあり、それを恥じらいなく。「馬子にも衣装だ。背広を仕立てて貰ってあげるわ。」

若者は女性の前に跪き、頭を下げると、ずうっと横から観察を続けていたイッセーさんは、フラフラしながら二人の後ろから部屋へ入る。若者の戸惑いの一つの原因は、同時に二人の女性と付き合っていた事にある。自分よりも年上、しかも病弱なイッセー小母さんが床に倒れると、女性は戸惑いを隠せない。

後者の組の方は、男性が若者らしく元気だ。明らかに自分の母親であってもおかしくない年齢の差を、完全に否定している。二人は、女性のアパートに座り、若者はパンツ姿。小百合さんは片方の靴下しかはいていない。

「あたし、心臓寝てるの。心電図にも出てるの」
「、、、」
「服を着てよ」
若者は、無言のまま女性の肩に手を廻す
「アガリスクの原液を飲んだの」
「俺は本気だ。小百合の事を愛しちゃいけないのかよ」

とにかく帰るようにと説得する女性。しかしこの状況では、心が揺れているから、「一緒に住んで」も「出て行け」も一緒。素直に従うはずもない若者は、世間の事を気にしていない事を強調する。しかし、小百合さんとの愛の証としてあげている事は全て、親子の関係において当たり前なものばかりだ。

芝居を観察し続けていたイッセーさんはここでも突然、若者の母親として登場すると、状況はがらりと変わる。叱られた息子は、今までの元気を失い、恥ずかしそうに服を着る。女性は平伏せ、謝罪するが、母親の彼女に向ける態度はむしろ申し訳なさそうだ。

「本当に済みません。息子が迷惑をかけています。」

幕が閉じるごろ、女性とお母さんイッセーさんは、未だどうしたら良いかわからない息子が見守る中、笑いながら腕相撲をしている。

昨日の段階では、まだ朧気だった各作品の輪郭は、本番に近づくにつれだんだんとはっきりして来る。洗練されている訳ではないが、粗っぽく自然な新鮮味が感じられる。今日の演目は、次のとおりだ。

読めよ
公演のべんちに座っている若い男女。彼は神経質そうな文学系、可愛い彼女はつかみ所のない子供っぽさを露にしている。二人は明らかに互いの事は好きだが、会話はまったく成り立っていない。自分も読んだ事のない本を次から次へと勧める男の言葉を、眉間に皺をよせながら聞く彼女は、その中で時たま知っている名前をキクとうなずき、嬉しそうな笑みを浮かべる。
二人は、突然現れ、ベンチに背を向けて念仏をとなえ始める小母さんイッセーを無視し、自分たちの世界に没頭している。
音楽の為に
中年になっても、売れる気配もないミュージシャン志望の男性を好きになった女。彼の方は夢と現実の狭間で生き、使いも出来ない楽器を買うためのお金を女からねだる。相手の事を好きである気持も多少はあるかもしれないが、付き合う最大の目的は明らかにお金だ。
二つの携帯電話
不倫関係にある男女。しかし、彼の方は気持が冷めている。必死になって、奥さんと分かれてほしいと説得する彼女は、自分の全てを込めて男を引き寄せようとするが、男はキスを拒む所か、完全に無視する。男性の電話がなると、携帯を奪い、着信履歴を確認する彼女は、仕事相手からの電話しかない事をみて恥じる。が、男はもう一つの電話を持っていた。仕事とプライベートを使い分けている。
キャバレーの女
水商売の女性との付き合いを断とうとする男。しかし、彼女はその嫌がる態度を無視する。本当に好きかもしれないが、それと同時に相手の歯切れの悪さに意地になっている部分もあるだろう。最終的に、男はお金を差し出すと、女も堪忍袋の緒が切れ、差し出された紙幣を破り、紙吹雪のように男に投げ帰す。
年上の彼女
お金と権力を巧みに使い、若い男を手の物にする女性。でも、男は、彼女よりも年上のもう一人の女性と付き合っていた。
おふくろの愛
年の差を感じさせる、これまた男女二人。しかし、彼女は世間の目を気にし、罪の意識から別れ話を持ち掛ける。若い男性はそれを耳にもしないが、その母親が突然二人の前に現れると、今までの威勢は何処かへ消えてしまう。

劇場は殆ど満席だ。お客さんは殆どイッセーさんを見に来ているものの、ワークショップ公演の後の稽古にも付き合う方もかなりいる。

いつ変わっても良い演劇は生きている。残って下さった方々の中には、次回のワークショップに参加してくれる方もいるかもしれない。

届く事のないキス
相手の気持が遠のいているを感じながらも、必死になって関係を保とうとする女。しかし男の気持は冷め切っている。プライドを捨てて捧げようとするキスはその冷気にさらされ、届かぬまま凍える。

終わらせたい男
キャバレー勤めの女性との付き合いを終わらせたいが、どうしたら良いかわからない男。その事をわかりながらも、終わりにしたくない女。

学者気取りの男と可愛い好きな女
読みたくない本を勧められるのは嫌い。でも彼の事は好き。

もう一人の彼女
年下の男と付き合う女性。しかし、気弱そうな彼には、実は自分よりも年上の、しかも虚弱体質らしい別の彼女がいた。

客席
客席は、イッセーさんの公演後、ワークショップも見に来てくれたお客さんでいっぱいだ。

演出家の森田
公演後の駄目だし。今日の公演を見て、明日は何処を変えれば良いかの大事な一時。