久しぶりの学校

兵庫県 高砂市立鹿島中学校

神戸へ向かう。今日は、話には何度も聞いていた教員ワークショップの日だ。

学校は何年ぶりだろう。通っていた当時は良かったがその後、あまり良い想い出はない。十年ほど前、志木市のとある小学校に文化交流イベントのゲストスピーカーとして招待された時の話だ。案内された控え室のソファーに座り、頭の中でこれから話す内容を整理していると、突然部屋に入った校長先生に「そこから退いて下さい」と言われる。何の事かと思いながら言う通りにすると、部屋に続々と現れるのは教育委員会のお偉様方だ。すると、校長先生はもう私の存在を忘れたかのように、床を舐めんばかりの姿勢で彼らをソファーへ案内しているのではないか。

性格上、普段ならもうその段階で荷物をまとめて帰る所だが、子供たちが数週間前から楽しみにしているイベントだ。教員はどうであれ、帰る訳には行かない。しかし、怒りを抑えようと廊下を歩き廻ったあの一時間を思い出すと、今でも悪感がし、鼓動が激しくなる。

しかし、ここの学校は違う。入ったその時から何となく雰囲気が良い。それもその筈。校長先生が自ら、しかも演出家森田の反対を押しきって先生たちの為の演劇ワークショップを企画しているとなると、面白くない訳はない。かなり期待できそうな気がする。

全員スリッパを履き、図書室へ向かう。教員の仕事は、下校時に終わる訳ではないので、決まった時間には来られないのだ。取り敢えず、何人か揃う迄待つ事になる。出されたお茶とチョコレートを頂きながら、本棚の中身を調べる。はだしのゲン、偉人伝、漫画日本史、、、ことわざ事典、世界名作集、、、少し幸せな気持になる。そう、実を言うと、小学校に入る前から図書館が大好きだった。他のスタッフも皆、本棚の間を探検している。

すると、数人の教員と一緒に現れたのは噂の校長先生だ。この人ならもしかして子供の時も好きになったかもしれないと思う。仕草も表情も特徴的で、何となくおどけた感じがする。何度か、イッセーさんの芝居で出た事がある「尾小池先生」のモデルであるのは一目で判る。

ぽつん、ぽつんと入って来る先生たちが、図書室に並べられた椅子に座る。幼稚園の先生から、高校の先生までと幅が広い。男性も女性も個性的ではあるが、特に男性にはそれぞれ独特の癖がある。声の大きな、動きの機敏な人、難しい表情で静かににらみつける人、まるまるとした顔付で廻りをきょろきょろと見回す人。明らかに普通の会社員とはひと味違うのだ。

いつもの「何か言って」で手慣しをしてから、色々な学校で実際に対面している場面を演じてもらう。何年もの間、幾とおりもの生徒を見て来た先生たちは、その生徒のタイプに合わせて対応をかえる。最近は、本来親の責任であるしつけも、下校後の行動も全て学校に押しつけられている傾向があるらしい。万引きで捕まった子供であれ、援助交際の疑いのある子供であれ、何故か先生たちが話を聞き出す羽目になるのだ。勉強は学校で行われ、教育は家庭で行われるという環境で育ったものから見て全くばかげた現実だ。

しかし現実は現実。その現実と日々対面しているのはここにいる先生方だ。一人一人、社会に押しつけられた役割をどう果たしているかを見るのはかなり面白いのものだ。

色々な場面への対応は本当に千差万別だ。突っ張った男子生徒に大きな声で質問を繰り返す先生。ずうっと黙ったまま座り続ける、援助交際の疑いが掛かっている女子生徒に心配そうに話かける先生。笑って冗談を飛ばしながら男子生徒に本当にたばこを吸っているかを尋ねる先生。イッセーさんが、成績の悪い子供の親として抗議をすると、さすがに相手役の先生も困るが、その困り方もかなり絵になっていて面白い。

何回か来ている先生もいるが、今回が初めての参加者もいるらしい。しかし、皆が驚くほどうまい。

これは、日ごろから芝居をしているからに違いないと思う。生徒達は、つまらない講義を聞く訳がない。だから、一人一人は話を聞いてもらう為に色々な工夫をしているのだろう。冗談をいう人、特に覚えて欲しいポイントを色々な方法で強調する人、そして言動全てがパフォーマンスの人がいる。一番生徒達に嫌われ、働く意欲を失ってしまうのは、最終的に何の面白みのない先生だろう。昔の記憶をたどって見るとそんな気がする。

職員室もドラマに満ちているようだ。理想に燃えて教職に着いても、実際の仕事の官僚的要素に消耗し、ただ定年を待つ先生もいる。スポーツやクラブ活動が上手く行き、チームが全国大会迄残るとその分先生の自由時間がなくなる事に気付く生徒は少ないだろう。一通り生徒との絡みを試してから、そんな色々な先生が集まる職員会議をもって今回のワークショップが終わる。

今度いつ行われるか判らない、不定期的なこの教職員ワークショップ。どんな舞台に結び付くか是非みたいものだ。

校長
演出家森田の反対をおし切り、「先生ワークショップ」を実現した尾池先生。

女性二人
先ずは手慣し。演出家森田の「なにか言って」には少し戸惑う先生たち

イッセーと女子先生
父兄イッセーの「じゃあ、何ですか、うちの子が悪いと言うのですか」に対応するのはベテランにとっても難しいようだ

松尾君と先生
アバンギャルズの松尾君もなかなか手強いたいぷらしい

女子生徒
「貴方を見たという人がたくさんいる。訳を話してくれないか。」

演出家の森田
演出家の森田は楽しそうだ

全員
学校の職員会議。実際なにが起きているかは今までは想像もした事なかったのだ