想い出と嘘

今日も、円陣になって、思い出話から始める。いや、思い出し話と言った方が正しいかな。皆が、田舎の祖父母が言っていた事、言いそうな事、久しぶりに行ってみた時受けた印象を連想する。

「晴れ見が丘。あれ、桜丘と言うのね。でも名前を付けると聞いた時あたしが提案したのは晴れ見が丘。ほら、晴れた日だと、海がよく見えるでしょう。」と自慢話をするお婆ちゃんもいれば、始めてカードで買物をし「お金がなくても物が買える。良い世の中になったものだな、、、」と感動するお婆ちゃんもいる。中には、子供をおちょくるのが好きなお婆ちゃんもいるらしい。「お婆ちゃん、貴方を橋の麓で拾ったのよ。だから顔が似ていないでしょう、、、」と。

「小さい時お婆ちゃんに、小豆入りのお手玉を貰った。小さな時そのお手玉で遊ぶのがとても得意だった。大きくなり、久しぶりに行くと、そのお手玉は虫が喰っていた。有ったはずの玩具が全部外された。電気も切れていた、、、」

作り話なら、もっと芝居くさく感じるかもしれないが、感情を込めずに淡々と語られると、この話はかなりこたえる。小さな時の想い出が悉く崩れ、消え去っている感触だ。

「あそこのお地蔵さん、歯痛によくキクのよ。アスピリンもきくけど、御参りしたら一発だ」

「入れや」
「只今」
「何でただいまなの」
「だって家だもん」
暖かい環境だったらしい。参加者は話を続ける。
「お婆ちゃんとよく寝ていた。トイレに起きると、お婆ちゃんが番茶をだす。とにかく暖まるものを出してくれる。ドクダミ茶も」

参加者が一人二役を演じると、演出家の森田が静かに、「返事をする必要はない。間を置くだけで良い」と指示する。

黒シャツにベージュ色のズボンを履いている男性は、祖父母の家の玄関が田植えをする人たちの休憩所になっていた事を思い出す。その側の女性は、夜の鬱蒼とした感じを忘れられない。

「婆ちゃんの家が山奥で、夜になると本当に暗いの。トイレは外だったので、夜泣きながらそこらへんでおしっこをした記憶がある。男女トイレは別々になっていて、何故かお婆ちゃんはいつも男子トイレに入っていた。いつも何でだろうと不思議に思っていたが、結局はその理由は聞けず仕舞となった」

森田が皆に、真実に拘らずに、想い出から好きな話に展開させるようにと指示する。すると、話は一気に発展していく。

白いセーターの女性は、即お婆ちゃんの物語を始める。「お婆ちゃんも小さい時、近所の子供たちと遊んでみたかった。でもお母さんが厳しすぎて、遊ばせてくれなかった。結婚も、戦時中だったので、お爺ちゃんの顔を初めて見たのは結婚式の時だった。お爺ちゃんはお酒が好きな人で、暴力もふるう。でも吹奏楽団でクラリネットを吹いたりもして、上手かった。怒る時は大きな声で叫んで、言葉が足りなくなったら物にあたる。戸とかをバタンと閉めたり。お婆ちゃんはね、家出も考えた。全部を捨てて。でも子供はみんなまだ小さかったからね、、、」

お婆ちゃんはしばらく想い出にふけ、小さな声で歌いだす。

「誰さき寝る、婆ちゃん先寝る、、、」

他の参加者も、真実の核の廻りに空想の物語を編みはじめる。その声は、今まで思い出を語る時と同じように柔らかく心地良い。色々な話を聞く内、時間が知らず知らず過ぎていき、気付くともう帰る時間だ。

イッセーさん
観察しながらイラストを書くイッセー。まだ直接参加するには早い。

白髪の男性
「お爺ちゃんはあまりしゃべらないが、お婆ちゃんがその分も喋る。家には、台所から戸一つ隔てた所にゴエモン風呂があったが、子供だから危ないという事で入れてもらえなかった。台所には大きな電気炊飯器があって、それで炊いた御飯は美味しかった。家の狭い二階で隠れん坊をしていた。庭には昔使っていた井戸があって、木も植えてあり、そんなに広くないのに電灯もあった。暗くなると、青く不気味に光っていた」

客席を背にして座る女性参加者
お婆ちゃんはあまり話す人ではなかった。私がいるといつも「英子はエー子だね」、と繰り返す

白いセーターの女性
「お婆ちゃんは昔、すごく厳しかった。若い時は厳しく育てられね。閉まっていた塀の向こうから琴の音だけが聞こえていただけで、近所の子供たちとも遊ばせてもらえなかった。」

演出家の森田
「想い出を芝居にするには嘘を入れる。嘘は良い事だ」