空想の中の集落

「昔昔、ある所に、お爺さんとお婆さんがおったとさ。お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんが川に洗濯に行ったと。すると、でっかいももが、ドンブラコ、ドンブラコと流れて来たとさ。」

スタッフが舞台を仕込んでいる為、昼の稽古は楽屋で始まる。仕事を休めた十人弱の参加者は、子供を寝かせようとするお婆さんを思い浮かべ、昔話を語る。部屋は狭く感じられるが、話しは弾む。思い出す風景は一人一人違い、記憶や想像はだんだんと鮮明になって来ている。

自分の事や本当の事だけとなると、物語に制約が出来、演じる本人も恥ずかしい。しかし、初日にも試みたように、本当の部分に色々な嘘をおり込むと話の流れが滑らかになる。

「お婆ちゃんが田植えしとったらね、蛇が出て来た。蛇様が出て来たのよ。あなたね、蛇が出て来たら棒でたたいたらいかんのね。蛇様は、家の守り神だからね。」

口調が柔らかい。本当に忠告をしている訳ではなく、子供を落ち着かせようとしている感じで穏やかだ。お蒲団の側でこんな話をしてくれるお婆さんなら、大人になっても必ず覚えている筈だ。

舞台が出来上がり、ホールの方へ移ると、演出家の森田は先ず全員に舞台に並んでもらい、その後ろにお婆さん役のさかなさんを座らせる。お婆さんの話を背景に、思い付いた事を話してもらう。

それがすむと、色々な組み合わせでチームを作ってもらう。客席から見る参加者の視線が静かながらもするどい。昨日は停滞期だったが、今日は次から次へと作品が生まれて来る。

農家の縁側に座って他愛無い話をする二人のお婆さん。そのまた先輩の曽お婆ちゃんが奥の座敷で、殆ど無言で座っている。一人が帰ろうとする、もう一人が「まだ良いじゃないか」と引き止める。

村の集会は、名目上ごみ置場に現れる狸とその対策を話し合う為だが、実際は内容がないので、前置きだけが延々と続く。皆の最終目的は、集会の後の酒盛りだ。しかし、これに気付くまでは色々な試行錯誤があり村長も途中で入れ代わる事になる。

「埼玉から嫁が来たが、顔を見せない」
「吉田の爺さんってどうかね」
「この前玄関で倒れたとよ。それから歩けんくなったと」
「今日、柴田の婆ちゃんも来とらんがよ、あの人足悪うくなってよ、この前蹴躓いて、歩けなくなってよ、、、」
「ほら、あの栄さんの所の爺さん、ぼけとらすとよ。この間、御飯御馳走になったらよ、後でお茶を飲んどったら、『あれ、俺御飯食べとらんかったっけ』と言いおらす、、、」

集会場はのんびり進み、静かに横になって寝ているお婆さんもいれば、途中で歌を披露し、静かな顰蹙をかうものもいる。

ある別の集落には、よそ者が村に引っ越し、全員に紹介する為の会合がある。

「この人はね、僕の良くしってる人で、あの、都会の人だね。岡田さんと言うんだけど、皆に紹介しようと思っておるんねん。で、かれは何で紹介しようと思うてるかと言うと、岡田さんにこの部落に住んで貰おうと思っておるんで、宜しくおねがいします。」
村長はしばらく沈黙に耐えるが、やがてまた話しだす。
「ほら、吉田の婆ちゃん、何かひと言いわんか」

村人はひそかに宴会を期待しているが、よそ者を演じるベーシストの岡田さんは、見事なくせ者振りを発揮し、集会の雰囲気が乱れる。ドラマは困った所から生まれるので、ここからどう展開するかは見ものだ。

集会のあと、気を落ち着かせた村長は岡田と二人になり、もう一度近付こうとする。昔経験した怪談を語る村長は岡田に冷たい目で見られ、やがては遮られる。

「爺ちゃん、さ。面白い事教えようか。」

話の途中だった村長ははっとするかのように「、、、うん」と言うと、岡田は勢いよくドラムを叩くふりをし、やがて口ラッパを演奏する。黙って見続ける村長の目には諦めと怒りが混ざっている。

村長がさってから、よそ者岡田の所に現れるのは、興味本にでミュージシャンになるにはどうすれば良いかと探る村の青年。本気ではない事は一瞬にしてばれ、やがて頭をドラム変わりに使われる始末となる。

他にもたくさんそろった素材は、明日どう発展するかが楽しみだ。

さかなさんと参加者の列
昼の稽古が切っ掛けとなったのか、お婆さんの話をバックに演出家の森田は全員を舞台に並べ、その後ろでさかなさんに喋ってもらう。

農家の縁側
近所のお婆ちゃんの縁側で話す女性二人。交互に帰ろうとすると、「いやいや、もう少し良いじゃないか」と相手に引き止められる。

白髪の男性
客席で頬杖をしながら舞台を見る男性。この雰囲気が好き

演出家の森田
突破口が見付かった。

若い参加者
耳と目を済ましている様子。全員の集中力がさらに増しているようだ

イッセーさん
スケッチをしながら観察を続けるイッセー。かれも感覚が澄んでいる様に見える

集会
特に意味のない村の集会。話題がないので、前置きが長い。