馴染みの風景
本番日だ。森田は出順を読み上げると通し稽古が始まる。ただし通し稽古とはいえ、まだ途中で発展や変更が多々ある。
農家の縁側で会話している二人の女性は、交互に帰ろうとする時、立ち上がる方は明らかに相手に止められるのを待つ傾向がある。止めてもらうのは当たり前ではあるが、止めてもらうのを期待しているように見せるのは規則違反だ。さりげなく立ち去ろうとする方が断然粋だ。
家族で居間に集まった初冬の静かな場面のなかで、家を後にしたい長女が初雪をみて踊りだす。ここは少し抑え目にし、身体を大きく動かさずに、静かに揺れた方が雰囲気が出る。
ごみ置き場を巡る集会の場面では、村長が延々喋っていると、村の本当の長老であるさかな婆ちゃんが集会場に現れる。さかな婆ちゃんは特に自己主張をしているわけではないが、今まで偉そうにしていた村長は何となく不満そうに座り、彼女に場を譲る。
かっぽう着の贈呈をめぐるやりとりに熱中する二人の主婦の場面はなかなかのヒットだ。贈る方も受け取る方も、やがて渡される事をしっているあきらかな駆け引き、と購入価格の探り合い等が妙に面白い。「受け取れない」を強くいい過ぎると先へ進まないので、相手に突っ込まれる余地を残すのがポイントとなる。
何故か印象に残るのは、よそ者岡田の所へ現れる村の青年の場面だ。ピアスと長靴の組み合わせが妙に見える。村から出る決心はどうしてもつかない彼は、よそ者岡田にいったい何を求めているのだろう。優柔不断さだけが漂い、岡田に頭をたたかれながらも泣きながら延々と村の良い所を述べ続けるのだ。
岡田さんと一緒に音楽隊を率いるドラムの黒ちゃんの、久しぶりに田舎のお婆ちゃんの家を訪れる場面が定まるまで時間がかかる。家も周辺も小さい時の想い出よりもかなり寂れているらしい。お婆ちゃんは意図的に黒ちゃんを無視しながら子守歌を歌う。
「誰先ねる、婆ちゃん先ねる」
「誰先ねる、爺ちゃん先ねる」
「誰先ねる、母さん先ねる」
人生に不安を感じたのか、黒ちゃんは海外で出会った嫁をむりやり連れて来ている。
一足先に来た彼は、「リサがね、婆ちゃんに会いたいんさ」と告げると、お婆ちゃんは独り言の様に喋りだす
「婆ちゃんね、お爺ちゃんと結婚してね、しばらく口も聞かんかったんや。それもさ、、、」
「おお、リサが来たんだ」と割り込む黒ちゃん。「ほら、リサ、お婆ちゃんに日本語で挨拶してよ」
しかし、リサとお婆ちゃんは即座に顔を背け、互いを無視する。リサはもとよりこんな所へは来たくなかった。あの手この手で二人を引き寄せようとする黒ちゃんの努力も空しく、リサは黒ちゃんを突き出すようにして去って行く。婆ちゃんは、その姿を見て笑いだし、残された黒ちゃんは思い余ってブルースハープを吹き出す。
やがて開演時間だ。ワークショップ公演はイッセーさんの一人芝居の後に行われ、ほぼ満席状態だ。ストリートミュージシャン魚津偏はとても暖かい雰囲気を作り、観客が参加者達を応援している事が手にとる様に判る。取り敢えずはホッとし、駄目出しを聞いてから明日まで解散する。

姑イッセーが、早く都会へ帰りたい花嫁に田舎暮らしの真髄を解く

「お世話になっておりますので、、、」「いえいえ、高かったろうに、、、とてもとても受け取れません」と、いつまでも続くエプロンの贈呈

今日、柴田の婆ちゃんも来とらんがよ、あの人足悪うくなってよ、この前蹴躓いて、歩けなくなってよ、、、

「昔山道で自転車が軽くなったから後ろを振り向くと、なんか見た事もない女の人がおったのよ。自転車を後ろから押しとったんだ。で、狸か狐でも化けたんかなとおもっていたが、まあ、見た事のない美人だ。ん。美人。で、坂を登りきって座ると、その人が側に座るのよ、、、」

音楽家になるにはどうしたら良いかと聞きに来る村の青年。元より村を出る迄の勇気のない優柔不断な彼は、ウンザリした岡田に楽器にされる。

「ほら、リサ、お婆ちゃんに日本語で挨拶してよ」

魚津ワークショップの最後の作品。亡くなった父の側にいる母と息子二人。母は父に静かに話しかけ、長男や次男は一緒に出来なかった色々な事を思い出しては嘆く。残された家族が歌いだすと、亡くなった父と舞台両脇に座っている他の参加者も合唱する